麗しき組曲たち
ようやく梅雨が明け、まぶしい日差しが戻ってきました。
さっそくに、窓外に劇的な夕暮れが展開しました。
長かった、ほんと長かった雨の日々で、首都圏では7月で雨の降らない日は1日しかなかったとか。
気持ちのいい、短めの組曲たちをテキトーにチョイスして聴きましたよ。
ドビュッシー 「小組曲」
ジャン・マルティノン指揮 フランス国立放送管弦楽団
(1973 @パリ)
ブログ初期にも取り上げたこの作品に、この演奏。
アンセルメの音源にしようかと思ったけど、行方不明に。
初期のピアノ連弾作品を、アンリ・ビュッセルが編曲。
「小舟にて」「行列」「メヌエット」「踊り」の4曲は、後年のドビュッシーにはない、若々しさとシンプルながらに、いとおしいくらいの優しさがあります。
ことに「小舟にて」のフルートは、きわめてステキであります。
おフランスのエレガンスさ、そのものにございます。
この録音の頃は、まだ放送局のオーケストラ名となっていたのちの国立菅。
ラヴェルもパリ管だけでなく、こちらのオーケストラとも録音して欲しかったマルティノンさんでした。
ビゼー 小組曲「子供の戯れ」
ダニエル・バレンボイム指揮 パリ管弦楽団
(1972.10 @パリ)
もうひとつ、フランスから、今度はパリ管で。
ドビュッシーの「子供の領分」のカプレ編曲のオーケストラ組曲があるが、子供好きだったビゼーも、ピアノ連弾用に12曲からなる組曲があって、そこから5曲を選んで、自らオーケストレーションをしたのが、この小組曲。
「ラッパと太鼓」「子守歌」「コマ」「かわいい夫とかわいい妻」「子供の舞踏会(ギャロップ)」の5曲。
子供をモティーフした作品らしく、元気ではつらつ、そして夢見るような雰囲気にもあふれた各曲です。
「子守歌」の優しい美しさ、「かわいい夫婦」はとってもロマンティックであります。
「ギャロップ」はもう踊りだしたくなるリズムにあふれた曲で、あのハ調の交響曲の終楽章にも通じる爆発的な明るさもあり!
若きバレンボイムとパリ管も弾んでます!
グリーグ 抒情組曲
レイモンド・レッパード指揮 イギリス室内管弦楽団
(1975年 @ロンドン)
画像は借り物ですが、やはりこの風景じゃないと、この曲は。
このグリーグの組曲も、元は同名のピアノ作品で66曲もあって、さすがに全部は聴いたことはないけれど、ギレリスやアドニのピアノでかつてよく聴いてた。
グリーグが選んだ4曲は、「羊飼いの少年」「ノルウェーの農民行進曲」「夜曲」「小人の行列」。
この作曲家ほど、北欧の、それもノルウェーの自然風土そのものを感じさせるものはありません。
哀愁と孤独感にあふれた「羊飼いの少年」、一転して、民族調の「農民行進曲」だけど、こちらもどこか寂し気で空気がとても澄んで感じる。
そして、この組曲で一番好きな「夜曲」。
まさに幻想と夢幻の合混じるえもいえない美しき音楽で、レコード時代、ジョージ・ウェルドン指揮のロイヤルフィルの演奏で、この曲を、お休み前の1曲で、聴いてから寝るということが多かった。
NHKの名曲アルバムでも、北欧の街とともにこの曲が紹介されていた。
この夢から引き戻されるような、ユーモアあふれる「小人の行進」ですが、中間部がまたグリーグならではです。
昨年、92歳で亡くなったレッパードは、チェンバロ奏者でもあり、バロック系の指揮者とのイメージもありましたが、グリーグを得意としてました。
手兵のイギリス室内管とともに、いくつものグリーグ作品を残してくれましたが、いずれもクールさと明晰、繊細な演奏で好きです。
晩年は、アメリカのインディアナポリス響の指揮者も務めていて、廃盤も多いので、この際、見直しをはかりたい指揮者でもあります。
シベリウス 「カレリア」組曲
サー・マルコム・サージェント指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(1961年 @ウィーン)
フィンランドの大民族叙事詩「カレワラ」の伝承地が「カレリア」という地で、その地にある大学から英雄伝説を物語にした野外劇の付随音楽の作曲依頼を受けて書かれた作品。
ここから3曲を抜き出した簡潔な組曲がこちら。
「間奏曲」「バラード」「行進曲」の3つで、あまり有名ですな。
基調は、いずれも明るく、屈託なし。
自然の描写そのもだったグリーグに比し、強国ロシアにさいなまれ続けたフィンランドにエールを送るような音楽なのです。
でもフィンランドの厳しい自然も「バラード」では感じさせます。
サージェントとウィーンフィルという思いもよら組合せが生んだシベリウス。
この録音のあと、ウィーンフィルはマゼールと交響曲を全部録音することになります。
マゼールよりウィーンフィルの魅力がより出ているし、「エン・サガ」などは、シベリウスの神髄が味わえる。
ちなみに、いま「カレリア」地方は、ロシアに編入されて、カレリア共和国として連邦のひとつになってしまってます。
フィンランドの一番東側です。
かつてのソ連も、いまのC国の姿と同じでありますな・・・・
コルンゴルト 「ロビンフッドの冒険」組曲
アンドレ・プレヴィン指揮 ピッツバーグ交響楽団
(80年代 @ピッツバーグ)
このCDは、この演奏ではありません。
コージアン&ユタ響の全曲盤でして、イメージのために掲載。
いずれこの1枚も取り上げるかもしれません。
で、プレヴィンのピッツバーグ時代のこの演奏は、ピッツバーグ響の放送アーカイブから録音したもので、プレヴィンはこの作品の正式な録音は残さなかったはずです。
ご存じの通り、アメリカに逃れたコルンゴルトは、ハリウッドで数々の映画のために作曲をし、その数、18作にものぼります。
「ロビンフッド」は、1938年の作品で、この音楽でコルンゴルトは自身2度目のアカデミー作曲賞を受賞。
この映画音楽から4つの場面を抜き出したのがこちらの組曲で、「古きよきイングランド」「ロビンフッドと彼の楽しい仲間たち」「愛の場面」「闘い、勝利とエピローグ」の4曲。
血沸き、肉躍る、までとは言えないまでも、スクリーンを脳裏に浮かべることができるほどに写実的で、まさに活劇の音楽でもあります。
20年前にウィーンで書いた「スルスム・コルダ」というオーケストラ作品から転用されていて、登場人物たちはライトモティーフで描きわけられているので、非常にわかりやすい。
その「スルスム・コルダ」とは、「心を高く」というような意味合いで、キリスト教初期の典礼句のひとつ「主を見上げ、心を高く」というところから来ております。
まさに、ロビンフッドという勇敢な、ある意味ヒーローに相応しい意味あいをもたらす点で、ここに転用したのかもしれません。
あと、「愛の場面」では、濃厚ロマンティックなコルンゴルトサウンドが満喫できます~
ピッツバーグ時代のプレヴィン。
当地の放送局には、プレヴィンやヤンソンス、マゼールらの放送音源がたくさんあるはずなので、なんとかなりませんかねぇ。
夏来りて、気分よろしく、スコッチウイスキーをちょびっと。
でも盆明けには秋来ちゃうかも。
失われた7月の夏は大きい。
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コメント
またお邪魔いたします。マルティノンのEMI録音、LP時代にかなりを仏パテか西独エレクトローラで買ったのですが、SQエンコードで締まりの無い音ばかりで。CDになってようやく真価を知ったような。
バレンボイムのビゼーはパリ管との初顔だったかと。まあ良くも悪くもマルロー&ランドフスキの方針を実践して長く続いたのですからやはりバレンボイムの功績は大かと。
'71~2年なのですが、名画座で「ソング・オブ・ノルウェー」なる作品を観ました。グリーグの生涯の自作をちりばめたミュージカル仕立ての一作で悪くなかったのですが、何故かTVでも再見の機会なくソフトも見当たらず。数多ある作曲家の伝記映画でも悪くない部類だったと思うのですが…。
投稿: Edipo Re | 2020年8月 2日 (日) 21時37分
「ソング・オブ・ノルウェー」、存じ上げませんでした。
映画レビューのサイトを見ると、みなさんノルウェーの自然とグリーグの音楽を絶賛されてました。
そしてDVDは発見できないともありました。
しかし、youtubeで英語検索したら、ありました全編が。
でもハングルで、ちょっと・・・・見続けることができませ・・・。
マルティノンのドビュッシー全集が出た時は快挙だと思いましたが、レコードでは、1800円になったときに有名曲だけ購入しました。
CDと確かにイメージが違いますね、よりドビュッシーらしくなった感じです。
バレンボイムもこのすぐあと、EMIを出て、CBSとDGに移りましたので、一連のビゼーは希少なEMI録音でした。
レーベルによって、オーケストラの印象が変わってしまう好例かもしれません。
投稿: yokochan | 2020年8月 3日 (月) 08時51分
ありがとうございます。YouTubeで発見しました。ただしハングル字幕付きは4:3標準ですのでフルHDでゆっくり観ることにします。パナヴィジョンの鮮やかな風景が印象的でしたので。
'93年のグリーグ生誕150年に生地のベルゲン・フィルがキタエンコと来日したのを池袋で聴きました。まあ盛り沢山なプロで「ペール」から数曲にアンスネス(まだ初々しかった)がP協。松本美和子さんが歌曲を幾つか。あと前橋汀子さんでシベリウスのV協に「火の鳥」と。終演は軽く10時を回ったかと。キタエンコがカーテンコールで左手首を盛んに指してました(笑)。
先年まで母の訪問看護に来ていたナースの一人に夏休みの単独旅行好きの女性がいて、チュニジアにブータン、マダガスカルと大したヴァイタリティだったのですが、当方が一番羨ましかったのはフィヨルドクルーズでした。もっとも映像などでは前方しか視界に入りませんが、実際には大勢がクルーズ船に同乗しているわけで、それを考えると…ウ~ム。ヴァイタリティなどとうに枯れ果てた還暦老人には最早不可能かと…。
投稿: Edipo Re | 2020年8月 3日 (月) 11時29分
平日はテレビがみれないのでPCのみとなりますが、あの文字は厳しいです・・・
キタエンコもサービス満点ですね。
同類がシモノフさんで、おなじく、懐中時計を見ながら、イヤイヤのていでアンコールを投じていきます(笑)
もうクルーズはおろか、大人数でのツアーは難しいですね。
当面は個人で国内をめぐることに喜びを見出すことにいたしましょう。
投稿: yokochan | 2020年8月 4日 (火) 08時39分
EdipoRe様の『SQエンコード』なる御言葉、1970年代に4チャンネル・レコードと言う、四台のスピーカーから音が別れて出る、システムが在ったようですね。ただ、EMIやCBSがクォドラフォニック方式、RCAやPhilipsがディスクリート方式と別々のシステムを採用し、両方のシステムに互換性が無く、デコーダー‥アンプのような物でしょうか?‥を双方の購入は、あまりにも音楽ファンの経済的負担がかかる為か、1976~77年辺りには消滅してしまったようですね。愚生は全く未体験に終わったこの再生システム、果たしてどんな物だったのでしょう。弦楽四重奏やウィンド・クワルテットですと、各パートが各々のスピーカーから別れて鳴る訳ですね。何やら体験してみたかった気も‥(笑)。
投稿: 覆面吾郎 | 2020年10月12日 (月) 14時30分
SQ4チャンネルは、CBSソニーとEMIの2社で、ビクター組と対峙しましたが、DGは乗りませんでした(のはず)。
ソニーは特に力を入れて、ブーレーズのオケコンでは、指揮者が真ん中にたって、そのままリアル4チャンネル録音で、話題になりました。
わたしは、中学生だったので、4チャンネルアンプなんて手が出ませんでしたが、FM雑誌を参考に、スピーカーの配線を交互にしたりすることで、疑似4チャンネルが楽しめたので、バーンスタンのハルサイでよく楽しんだものです。
過去記事で取り上げてます(笑)
投稿: yokochan | 2020年10月14日 (水) 08時26分