« マーラー 交響曲第10番 | トップページ | エディタ・グルベローヴァを偲んで »

2021年10月10日 (日)

バックス 交響的変奏曲 フィンガーハット

Radian-01_20211009205801

賞味期限切れたけど、今年の彼岸花

9月20日のものですが、その1週間前には影もかたちもなかった。

突然、ぐわーっと咲いて、すぐに枯れてしまうのも彼岸花、またの名を曼殊沙華。

Radian-02_20211009205801

美しいけど、怪しいね、彼岸花。

イギリスにもあるのかな?

アーノルド・バックス(1883~1953)の協奏曲的作品を。

少しの暑さも感じる初秋にふさわしい音楽。

Bax-symphonic-variation

  バックス ピアノとオーケストラのための交響的変奏曲

      Pf:マーガレット・フィンガーハット

   ブライデン・トムソン指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団

    (1987.1.7,8 @オール・セインツ教会、トゥーティング、ロンドン)

バックス中期の名作。
心臓の病持ちであったバックスは、第1次大戦に召集されず、その間、多くの交響詩やヴァイオリンやヴィオラのソナタなどを作曲。
こうした作曲活動のなか、バックスの人生に大きな転換期を告げる、出会いがあった。
妻と子がありながら、ピアニストのハリエット・コーエンと恋に落ち、彼女との関係は生涯続くこととなる。
最初は、いわゆる浮気、やがてその関係が強い友情となり、やがて切り離せない音楽パートナーとなる二人の関係。
バックスのピアノとオーケストラのための作品は5曲あり、いずれもコーエンを念頭に書かれてます。
1948年には、グラスで怪我をしてしまい、右手でピアノが弾けなくなった彼女のために、バックスは左手のための協奏曲を残してます。
 ちなみに、イケメン、バックス、1920年代半ば、コーエンとの関係のほかに、もうひとり、若いメアリー・グリーブスという愛人もできて、彼女はバックスが亡くなるまで尽くしたという。

こんな恋多き、ロマンス多しバックスの交響的変奏曲は、コーエンとの愛の産物のような存在なのですが、その夢幻かつ神秘的な雰囲気からは、甘味な恋愛感情のようなものは感じられない。
1916年より作曲を開始、ピアノ版は1917年に完成、1919年にオーケストレーションを済ませ、1920年に、コーエンのピアノ、ヘンリー・ウッドの指揮により初演。
しかし、スコアは刊行されず、第2次大戦で損傷を負ったりもして、1962年にスコアは復元されされ蘇演。
1970年に、ハットーのピアノとハンドレーの指揮で録音され、これがしばらく唯一の録音だった。
シャンドスのバックス・シリーズを担ったB・トムソンの指揮による1枚が今宵のCD。

ふたつの部分からなり、6つの変奏と1つの間奏曲からなる50分の大曲。

  第1部
   ①テーマ
   ②変奏曲Ⅰ 若者
   ③変奏曲Ⅱ 夜想曲
   ④変奏曲Ⅲ 闘争
  第2部
   ①変奏曲Ⅳ 寺院
   ②変奏曲Ⅴ 遊戯
   ③間奏曲  魔法
   ④変奏曲Ⅵ 勝利

それぞれの変奏曲にはタイトルがついているけど、それと音楽の曲調とマッチングさせて聴く必要もないように思う。
朗々として、そしてかつミステリアス、ケルト臭ただよう、スモーキーフレーバーのようないつものバックスサウンドに身をゆだねて聴くに限る。
バックス研究家は、この作品が、ケルトから北欧へのバックスの志向のターニングポイントになっているとします。

冒頭の主題からして、郷愁さそうバックスサウンド。
オケが懐かしそうなテーマを奏でると、そのあとから、詩的なピアノがアルペッジョで入ってくる。
この雰囲気ゆたかな出だしを聴いただけで、この作品のエッセンスは味わえるものと思う。

1910年に書かれた第1番のヴァイオリン・ソナタから引用も変奏曲のなかにはあります。
このソナタもメロディアスで懐かしい雰囲気なのですが、ピアノと響きあふれるオーケストラで聴くと極めてステキな様相を呈します。
ソナタの冒頭には、イェーツの詩の一部が書かれている。
「A pity beyond all telling is
       Hid in the heart of love」
それと、1916年に書かれた歌曲「別れ」からの引用もあるようで、そちらの曲は、まだ聴いたことがありません。

年代を考えると、古風なバックスの音楽スタイルですが、ともかく美しく、懐かしい。
フィンガーハットの詩情あふれるピアノと、バックスの伝道師、シャープな音楽造りのブライデン・トムソンの指揮が素晴らしい。

バックスの7つの交響曲は、この作品のあとから作曲が始まります。
オペラ以外のジャンルにすべてその作品を残したバックス。
シャンドスレーベルのシリーズは、だいたい揃えました。
DGやEMIなどのメジャーや、メジャー演奏家が決して取り上げない、そんなバックスが好きであります。

Radian-04_20211010145301

暑さ寒さも彼岸まで、なんてのは今年に限りあてはまらない。

|

« マーラー 交響曲第10番 | トップページ | エディタ・グルベローヴァを偲んで »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« マーラー 交響曲第10番 | トップページ | エディタ・グルベローヴァを偲んで »