ハイティンクを偲んで ⑤ SKD、CSO、BRSO、LSO
ドレスデン・シュターツカペレのホームページのハイティンク追悼サイト。
2001年1月のシノーポリの急逝を受けて、オーケストラからの熱いコールを受けて首席指揮者に就任。
このときのハイティンクの言動が、いかにもハイティンクらしい。
シノーポリが亡くなり、その年のコンサートの予定が一挙に指揮者不在のものとなってしまった。
楽団の指揮者・コンサート担当の長は、ハイティンクに書面でいくつかの演奏会の依頼をした。
ハイティンクは、オーケストラが大変なことに陥っていることを知り、長年の付き合いもあったので快く引き受けた。
そうしたら、もう少しお願いできませんか?という依頼がさらにきて、もう少しならということで引き受けて、それらの演奏会を終了した。
そのとき、オーケストラには父親が必要です、あなたになっていただけませんか?という依頼が今度はきた。
ハイティンクは父親というには、歳をとりすぎているお爺さんですよ、それでよかれば引き受けますよ、と謙虚に話した。
ただし、冠はいらないので、「指揮者」ということでお願いしますとハイティンクは念を押した。
しかし、最終的には「首席指揮者」となったんだ、と話している。
2~3年の任期で、オーケストラが次の首席指揮者を見つけるまで、という橋渡しとして、という言葉も残している。
こうした謙虚な姿勢が、各オーケストラから愛され、乞われる存在になったんだと思います。
ブラームス 交響曲第1番
ブルックナー 交響曲第6番
(2002.9、2003.11、@ゼンパー・オーパー、ドレスデン)
ブラームスの1番が、ブラームス1番らしく聴かれた堂々たる演奏。
2006年にこのCDを開封して聴いて、すぐに記事にした自分のblogが懐かしい。
ブラームスもいいが、ウェーバーのオベロン序曲もロマンあふれる素晴らしさだ。
ブルックナーは8番もこのコンビは残してくれたが、ここでは、爽快でありながら、後期の作品へのそれこそ橋渡し以上の存在であることをわからせてくれる6番をあげたい。
バイエルン放送響を指揮した80年ごろのエアチェック音源が、この曲の良さをわからせてくれた明るい演奏でもあったように記憶する。
R・シュトラウスも残して欲しかったものです。
オペラでは、「ばらの騎士」と「フィデリオ」のふたつ。
ゼンパーオーパーでオケピットには立たなかったのでしょうか。
オケとオペラのアーカイブは調べられませんでした。
2004年の来日公演で、ブルックナーの8番を聴くことができました。
このときのプログラムは、「ジュピター」と「英雄の生涯」、ウェーベルン「パッサカリア」とハイドン86番にブラームス1番。
そしてブルックナーでした。
当時はまだblogを始めてなかったので、そのときの備忘録から。
「演奏はもうまったくのすばらしさで、表現の言葉を知りません。
オーケストラのまろやかな響きに身を任せているとドイツの森に抱かれているかのような気持ちでした。
ことにホルンを始めとする金管はどんなに強奏しても、美しく鳴り響きます。
静寂のサントリーホールに響き渡るドイツの深遠な音をご想像ください。涙が出ました。
ハイティンクはオーケストラのメンバーが去った後も、聴衆のさかんな拍手にひとり何度か登場し、最後はスコアを閉じ、閉じたスコアを高く掲げました。
人柄がにじみ出た、実にいい光景でした。 感動です。」(2004年5月21日 サントリーホール)
ずっと心に残しておきたい、大切な体験でした。
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シカゴ交響楽団のホームページの追悼記事より
ハイティンクのシカゴ登場は、1976年で、そのときの曲目は、ショスタコーヴィチの4番!
ショスタコーヴィチの全集に取り掛かるころの、いかにもハイティンクらしい演目。
いらい、ずっと客演を続けていた。
ドレスデンのときと同じように、シカゴでも正規に音楽監督が決まるまでの中継ぎ的な存在として首席指揮者となりました。
バレンボイムがごたごたした感じで退任し、そのあとが決まらず、首席客演としてブーレーズが活躍。
そして2006年に、ハイティンクを首席に、ブーレーズを名誉指揮者として、次の音楽監督が決定するまでの間の暫定政権が決定。
音楽監督的な立場になると、オーケストラの運営面、指揮者選択など、指揮活動以外の多くの業務が課せられることを、コンセルトヘボウでさんざん体感してきたハイティンクは、ましてアメリカでのことなので、プリンシパルとして年に6~7週シカゴに行くという内容になりました。
それでも、このコンビはこれまた相性もよく、同じころに発足したオーケストラの独自レーベルからのCDがいずれも高音質・最高水準の演奏ということで絶賛続きでありました。
ワタクシも、ほぼ全部揃えました。
ブルックナー7番、マーラー1、2、3、6番、ショスタコーヴィチ4番、英雄の生涯、ダフニス。
マーラー 交響曲第3番
Ms:ミシェル・デ・ヤング
ショスタコーヴィチ 交響曲第4番
(2006.10、2007.10 @オーケストラホール、シカゴ)
このブログでもベタほめした2枚。
ともにオーケストラの超優秀さと、ハイティンクの悠揚たる巨視的な指揮。
101分たっぷり使ったマーラーは、少しもだれることなく隅々まで丁寧な仕上がりで、柔和なマーラーは3番のイメージにぴったり。
それと6番は、より剛毅な演奏である。
ショスタコの4番のハイティンクの再録音。
楽譜の忠実な再現ではあるが、そこは円熟のハイティンクと最強のシカゴで、音の彫りは深くなり、とりとめない構成が、立派な骨組みの大交響曲となって響く。
ハイティンクは4番が得意で、ベルリンフィルとのライブもCD化して欲しいと思う。
2009年に来日したハイティンクとシカゴ響。
マーラーの6番と、英雄の生涯のふたつの演奏会を聴きました。
演目は、ドレスデンの時と同じ「ジュピター」と「英雄の生涯」、ハイドン「時計」とブルックナー7番、そしてマーラー。
ショルティとシカゴのマーラー5番を文化会館で聴いたときもぶったまげましたが、このときのマーラーはもっとぶっ飛びました。
サントリーホールで、最前列のチェロの下、ハイティンクは斜め左にすぐの指揮台に。
詳細は、そのときのブログを確認ください。
チェロばっかりで、ほかの楽器がうまく聴こえないのではないかと不安でしたが、そんなことはまったくなく、見事にブレンドされた素晴らしいマーラーサウンドで、下から見上げると、ときおりオケを睥睨するハイテインクの眼力をも確認することができました。
圧倒的な音塊の連続とそのピラミッド感。細部が緻密なまでに完璧で、リズムの刻みが100人のメンバーの隅々にまで行き渡って完璧なまでに縦線がそろっている。じわじわと盛り上がりつつ、とてつもないクライマックスを築きあげる。
いったい、どこが最高潮のクライマックスなのだろうか? (ブログより)
ふっくらと柔和な、微笑みさえ覚えるような素敵なモーツァルト。
もっと、ゴリゴリした巨大な演奏になるかと思ったらまったく違った、清冽で清らかなジュピター。
年輪を重ねた音楽家の紡ぐ人生譚に、尊敬の念の眼差しを持ったシカゴの猛者たちが心服しつつ演奏しているのもわかった。
英雄の生涯もスペクトル感もありつつ、曲の後半訪れる人生の夕映えのようなシーンに感動がとまらなかった。
曲を終えて、静寂のなか、ハイティンクはさりげなくタクトを降ろし、指揮台に指揮棒を置いた。
そのコトリという音さえも、静寂のホールに響いた。
マーラーの6番は、アバドとルツェルン祝祭管で、人生最大級の感動を。
このハイテインクで、ずっと追い続けた演奏家の円熟の極み、そしてスーパーオケの力を。
聖響&神奈フィルで、震災翌日の異様なテンションのなかで・・・
いずれも壮絶な思いでとなる体験をしてます。
もう演奏会では聴かないかも・・・・・
シカゴ交響楽団は、演奏会アーカイブもしっかりしていて、そのいくつかはネットでも公開されてます。
いつかそこから正規音源が出ることも期待されます。
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バイエルン放送交響楽団もハイティンクと馴染み深いオーケストラでした。
コンセルトハボウと指揮者のつながりもあって、なんだか姉妹関係にあるように思ったりもしてます。
ヨッフムとヤンソンスはともに首席指揮者だったし、コリン・デイヴィスもコンセルトハボウをよく指揮してました。
ハイテインクがいつ頃からバイエルンを指揮し始めたか、記録がなくて今回はわかりませんでしたが、70年代初め頃だろうと思います。
上のほうでも書きましたが、バイエルン放送局ということもあり、その演奏会はよくNHKで放送されていたので、ハイティンクとのコンビはいくつか聴いた覚えもあるし、ブルックナーの6番もカセットテープで残ってます。
正規の録音は、1981年の「魔笛」が初(たぶん)で、グライドボーンでロンドンフィルとダ・ポンテ三部作をEMIに録音した後に「魔笛」ではバイエルンを起用したものです。
グライドボーンでもpromsでも「魔笛」は指揮してますので、LPOやコヴェントガーデンでなかったのは、綺羅星のスター歌手を集めやすかったのがミュンヘンだったということもあるんでしょう。
結果は上々、ハイティンクのつくりだす、ふくよかなモーツァルトは、オーケストラの暖かな音色も加えて上質の魔笛となりました。
バイエルンとは、このあとオペラの録音が続きまして、「ダフネ」(82年)、「タンホイザー」(85年)、「ニーベルングの指環」(88~91)という、いまとなっては貴重な成果が残されました。
EMIには、もっと頑張ってもらって、ワーグナーとシュトラウスのほかの諸オペラを録音して欲しかったものです。
ブラームス アルト・ラプソディ、埋葬の歌
運命の女神の歌、哀悼の歌
A:アルフレータ・ホジソン
バイエルン放送合唱団
(1981.11 @ヘラクレスザール、ミュンヘン)
ベートーヴェン 交響曲第9番
S:サリー・マシューズ Ms:ゲルヒルト・ロンベルガー
T:マーク・パドモア Br:ジェラルド・フィンリー
バイエルン放送合唱団
(2019.2.23 @ガスタイクホール、ミュンヘン)
ハイティンクとバイエルン、初期の録音、ブラームスの声楽作品集は、その渋いこと渋いこと。
いぶし銀の音楽であり、その演奏は、まろやかな円熟味をおびた心に優しく響く演奏。
ボストン響との再録音もあり、そちらと聴き比べるのもよい。
しかし、哀しくもなる、儚くもなる、しんみりしてしまうほどに沁みる。。。。
指揮者引退の年の第9。
ゆったりとしたテンポを取りつつも、大きな歩みで風格ただよう名演。
ソロも素晴らしく、彼らも合唱もオケも、動きの少ないハイテインクの指揮棒と眼差しに集中している(映像で視聴済み)。
3楽章の澄み切った演奏には泣ける。
終楽章、なにも華やかでなく、淡々としつつも堂々たる終結。
拍手は起こらない。
こんな静寂の第9のエンディングがあるとは。
観客はスタンディングオベーションでハイテインクを讃える。
このあと2019年4月にルツェルンで、ブルックナーの6番を指揮して、バイエルン放送響とはお別れということになりました。
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ロンドン交響楽団との共演はそんなに昔でなく、1989年。
ブラームスやベートーヴェンのチクルスを演奏会で行い、同時に自社LSOレーベルからも次々に発売し、ハイティンクがロンドンに居宅を構えるのも幸いして、急速に親密になっていきました。
もともとロンドン・フィルと長く関係を築き上げましたが、ロンドン響とも強く結びつきました。
ちなみに、ハイテインクはpromsには、1966年にデビューしてますが、そのときの曲目がブルックナーの7番、オーケストラはBBC交響楽団です。
以来、毎年のように招かれ、ときにコンセルトハボウやウィーンフィル、ヨーロッパ室内管などと客演してますが、ロンドンのオーケストラとは、先のBBC、ロンドンフィル、フィルハーモニア、コヴェントガーデン、ずっとあとにロンドン響という具合に、ロイヤルフィル以外は全部指揮しております。
残念ながらLSOレーベルのハイティンクのCDは、ブラームスの一部しかもってません。
なぜかって、理由はありませんが、CD購入欲が低迷していた時期だからだと思います。
ブラームス 交響曲第1番、2番
(2003.5 @バービカン、ロンドン)
ハイティンク3度目のブラームス全集。
しかしながら、1番と2番しかもってません。
ここに聴く演奏は、若々しさと、一筆書きのような自在さと柔軟さ。
ライブならではの勢いもあって、あの落ち着き払っていた渋めのボストン響との演奏よりも力強い。
きっと、ベートーヴェンのその延長にあるような同時期の録音だと思います。
LSOとは、ほかにブルックナー4番、9番、アルプス交響曲などがありますので、これからゆっくり聴いていきたいと思います。
2015年のこのコンビの来日も、行こうと思いつつも行けなかった・・・・
ネットでは、ロンドン響のアーカイブがたくさん公開されてます。
手持ちの音源は、マーラーの3,4,9番、ブルックナー4番(2種)、ショスタコ8番などがあります。
引退の年の2019年3月、ハイティンク90歳の記念演奏会も録音できました。
プログラムは、フェルナーのピアノでモーツァルトの22番と、ブルックナー4番。
1965年のコンセルトハボウとの録音から54年という半世紀超。
年月の積み重ねは、演奏時間では一面的ですが、63分から73分という長さにも見て取れるが、老成することの美しさも感じるし、2019年の一連の演奏の数々は、引退を決意したハイティンクの夕映えのような静かな美しさもあるように思う。
2019.2月 BRSO 第9、3月 LSO ブルックナー4番、4月 BRSO ブルックナー6番
5月 BPO ブルックナー7番、6月 オランダ放送フィル ブルックナー7番
8月30日ザルツブルク、9月6日Ploms、9月6日ルツェルン、VPO ブルックナー7番
もう少しあるかもしれませんが、2019年のハイティンクです。
ロンドン響との最後の演奏会。
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長い企画となりました、オペラ編を最後に残して、他の共演オーケストラを端折って書きます。
・オランダ放送フィルハーモニー
ハイテインクの指揮デビューと初ポストのオケ
ファウストの劫罰が突如発売され驚いたものだ
面白味は少ないが、真摯なベルリオーズが聴ける。
引退の年、こちらにも客演してブルックナー7番を指揮
・フィルハーモニア管弦楽団
エルガーの2曲と、ウォルトンの交響曲第1番
アシュケナージとのラフマニの一部
・フランス国立管弦楽団
最初はパリ管、そのあとはフランス国立菅を多く指揮するようになりました
マーラーの5番、6番のCD。
ネットでも動画含めたくさんあります。
・ニューヨーク・フィルハーモニック
正規音源はありませんが、1976年から2016年まで32回客演。
いまは有料化してしまいましたが、フリーで解放していたライブ音源。
マーラー9番とドンキホーテを録音できました。
2016年のそのマーラーがなかなかのものです。
コンセルトハボウともに、マーラーと所縁のあるNYPO
こちらも正規音源化を期待
・ECユースオケ、ヨーロッパ室内管、ルツェルン祝祭管、モーツァルト管
クラウディオ・アバドの創設した若いオケだったり、スーパーオケ。
アバドとともに支え、またアバド亡きあとを支え、
楽団を救ったのがハイティンク。
いつも世界のオーケストラの急場を救うハイティンクでした。
人柄ですね。
所蔵音源としては、ヨーロッパ室内管とのブラームス4番
ファウストとベルクのヴァイオリン協奏曲。
あとなんたって、ルツェルンとのブルックナー8番はお宝です。
2019年9月6日、ウィーンフィルとのルツェルンでの最後の演奏会。
あと1稿、ハイティンク追悼、オペラ編で終わります。
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コメント
いつも読ませていただいております。ありがとうございます。
一つお尋ねしますが、ルツェルンとのブルックナー8番というのは、実演を聴かれたのですか?それともCDがあるのでしょうか?
私も是非聴いてみたいです。教えてください。
よろしくお願いします。
投稿: よしお | 2022年8月 4日 (木) 22時35分
コメントありがとうございます。
ハイティンク&ルツェルンのブルックナー8番は、2016年のルツェルン音楽祭のライブです。
ネット放送されたものを録音しました。
いずれ正規音源化されることを期待したいものです。
投稿: yokochan | 2022年8月 6日 (土) 15時09分