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2023年8月18日 (金)

レナータ・スコットを偲んで

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 メトロポリタンオペラのニュースの冒頭。

またもや悲しみの訃報が。

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名ソプラノ、レナータ・スコットさんが、8月16日、生まれ故郷の北イタリア、ジェノヴァ近郊の街、サヴォーナで逝去。
享年89歳。

訃報相次ぎました。
飯守さんに継いでの悲しみ、さらに数日前は、スウェーデン出身のドラマティックソプラノ、ベリッド・リンドホルムも亡くなってしまった。

3年前に亡くなったフレーニの1歳上だったスコット。
フレーニの訃報を聞いた時に、心配になってスコットの動静を調べたりしたものです。
そして、そのとき安心したのもつかの間、この時を迎えてしまった。

地中海に面したサヴォーナは漁村でもあり、父は警察官、母は裁縫士で、歌うことが好きだった彼女は窓辺で外に向かって歌を披露し、道行く人からご褒美にキャンディをもらったりしていたという。
後年、まさにお針子の娘だった出自は、ミミを歌い演じるときのヒントとなったと語ってます。

18歳でスカラ座でヴィオレッタでデビュー、その後はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍を重ね、数々の録音も残したのはご存知のとおりです。
レッジェーロからコロラトゥーラで、その最初の全盛期をむかえ、70年代初頭には不調期となりますが、声の変革を多大な努力のもと行って、
ドラマティコ、リリコ・スピントの領域へその声も移行し、70年代後半以降、ドラマティックな役柄もたくさん演じ、録音も復活して輝かしい第2黄金期を築いたのでした。

私がスコットを初めて聴いたのは、1973年のNHKイタリアオペラ団の来演の放送。
ワーグナー一辺倒から始まった私のオペラ好きへの道は、この年の来演で、FMから演目の紹介を兼ねて何度もレコードが放送され、それを聴き、本番も生放送で食い入るように聴き、テレビも興奮しながら観まくり、イタリアオペラへの開眼も済ませたのでした。

ヴィオレッタとマルガレーテの2役を歌ったスコットは、テレビで観るほどに、役柄に没頭したその姿が感動的で、ともに健気な女性をうたい演じてました。
スコットのこのときの歌と演技を見ていて、中学生ながらにオペラで歌手が、歌をいかに演技に乗せて、それをドラマとして築きあげ視聴する側の気持ちを高めていくのか、ほんとうにすごいことだと思ったのでした。

その後、スコットはソロで何度か来日していますが、残念ながら、わたしはスコットの声を生で聴いたことがありません。

手持ちのスコットの音源からアリアを抜き出して聴いて、今宵は偲ぶこととしました。

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 ベッリーニ 「カプレーティとモンテッキ」

1967年スカラ座でのアバド、パヴァロッティ、アラガルらとの共演。
ちゃんとした録音で出ないものかとも思うが、視聴には差支えのない録音状態で、瑞々しくも美しく、軽やかなスコットの声が楽しめる。
アバドとは、ヴェルディのレクイエムぐらいしか共演はなかったかもしれない。

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 ヴェルディ 「リゴレット」 

1964年のユニークなキャストによる録音。
高音の凛とした美しさと、まだ純朴さもただよう素直な歌は実に新鮮。
テクニックも確かで聞惚れてしまう。
これなら娘を思う親父の気持ちもわかろうというもの。

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 ヴェルディ 「ラ・トラヴィアータ」

後年のムーティ盤でなく、62年録音のこちらの方が好き。
ジルダよりもさらに若々しい声は、耳も心も洗われるような思いがする。
スカラ座のオケもすんばらしい。

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73年のNHKホールでのあの姿、若いカレーラス、味わい深いブルスカンティーニとともに、いまでも脳裏に浮かぶ。

 ヴェルディ 「オテロ」

78年の録音。
彫りの深い歌唱は、運命にもてあそばれる不条理さ、最後には清らかさも歌いだして見事。
ドミンゴとミルンズという絶好の相方たちを得て、オペラティックな感興も増すばかり。
でも最近、ドミンゴの声に食傷気味。

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 プッチーニ 「マノン・レスコー」

80年のメットライブ、映像もあり。
多様な生活を送りつつも、一途な愛を貫こうとするひとりの女性をスコットは見事に歌い演じてます。
この役に関しては、スコットとフレーニが双璧。
映像でみると、さらに迫真の演技が楽しめる。
レヴァインの指揮も素晴らしい。

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 プッチーニ 「ラ・ボエーム」

若き日のDG盤は未聴、ここでは79年のレヴァイン盤で。
ロドルフォのクラウスとともに、ベテランでありながら、折り目正しい模範解答のような素晴らしすぎる恋人たち。
スコットの母を思いつつ歌うミミは、フレーニとともに、わたしには最高のミミです。
ラストは泣けてしまい、まともに聴けない・・・・

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 プッチーニ 「トスカ」

80年録音、スコットの唯一のトスカ。
技巧を尽くしながらも自然な歌い口と強い説得力を持つ歌唱。
止められなくなるので、「歌に生き、恋に生き」だけを聴いて涙す。。。

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 プッチーニ 「蝶々夫人」

66年のバルビローリ盤。
後年のマゼールとの再録は実は未聴で、蝶々さんにこのバルビローリ&スコット盤が残されて、ほんとに感謝しなくてはならない。
初々しい若妻としての可愛さ、船を待つ情熱、そして覚悟の死へと、スコットの蝶々さんは涙なしには聴けない。
うなり声も入ってしまうバルビローリの指揮も最高じゃないか。

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 ヴェルデイ アリア集

83年の録音。
マクベス夫人も歌うようになり、全盛期を過ぎてしまったスコットの声だけれども、エリザベッタのアリアなど悔恨の情が著しく聴きごたえあり、こうして若き日の声からずっと聴いてきて、ひとりの偉大な歌手の足跡とたくまぬ努力の道筋を感銘と感謝とともに確認できました。

ほんとうに寂しい。

いつも歌手の訃報に接すると書くことですが、楽器と違い、人間の声は耳に脳裏に完全に刻み付けられます。
だから歌手たちの声は、ずっと自分のなかに残り続けるのです。
それがいま存命でないとなると、自分のなかの何かが、ひとつひとつ抜け落ちていくような気がするのです。

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レナータ・スコットさんの魂が安らかならんこと、心よりお祈りいたします。

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コメント

レナータスコット、亡くなったんですね。衝撃です。よこちゃんもご指摘のように楽器ではなく声は2つとありません。一度好きになるとその声でずっと聴きたくなります。スコット、、大好きでした。ヴィオレッタもミミもジルダもトスカも、、大好きです。20代で好きになってからずっと好きです。今夜はお気に入りの棚からスコットのLPレコードを取り出して聴きます。同じ年生まれのお酒(こちらは高級酒になっている、私は0円のままです)を飲みながら、一人でお通夜をします。悲しいお酒になりそうです。

投稿: モナコ命 | 2023年9月21日 (木) 13時09分

モナコ命さん、こんにちは。
フレーニと1歳違いの同世代のスコット、フレーニが2000年に亡くなったときに、心配になってスコットが健在か調べましたが、お元気に過ごされていたので安心してました。
しかし、時は来てしまいました・・・
泣けましたね・・・
この世代の歌手のみなさんは、わたしたちのオペラ鑑賞になくてはならない存在でしたので、思いもひとしおですね。
歌手の訃報はまいど堪えます。

投稿: yokochan | 2023年9月28日 (木) 08時55分

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