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2024年5月 3日 (金)

プロコフィエフ 「3つのオレンジの恋」 

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桜が終盤の秦野の出雲大社相模分祠。

秦野は近いし、商業施設も豊富なので、週に1~2回は行きます。

歴史ある施設も多く、行くたびにいろんな発見があります。

毎年の節分には、大相撲の力士も訪れ、豆まきをしますが、今年は近くの地元の熱海富士が来ました。

こんな日本の風物を、短期間ですが日本滞在したプロコフィエフはどの程度味わったでしょうか。

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プロコフィエフ(1891~1953)の作品シリーズ。

略年代作品記(再褐)

①ロシア時代(1891~1918) 27歳まで
  ピアノ協奏曲第1番、第2番 ヴァイオリン協奏曲第1番 古典交響曲
  歌劇「マッダレーナ」「賭博者」など

②亡命 日本(1918)数か月の滞在でピアニストとしての活躍 
  しかし日本の音楽が脳裏に刻まれた

③亡命 アメリカ(1918~1922) 31歳まで
  ピアノ協奏曲第3番 バレエ「道化師」 歌劇「3つのオレンジへの恋」

④ドイツ・パリ(1923~1933) 42歳まで
  ピアノ協奏曲第4番、第5番、交響曲第2~4番、歌劇「炎の天使」
  バレエ数作

⑤祖国復帰 ソ連(1923~1953) 62歳没
  ヴァイオリン協奏曲第2番、交響曲第5~7番、ピアノソナタ多数
  歌劇「セミョン・カトコ」「修道院での婚約」「戦争と平和」
 「真実の男の物語」 バレエ「ロメオとジュリエット」「シンデレラ」
 「石の花」「アレクサンドルネフスキー」「イワン雷帝」などなど

年代順にプロコフィエフの音楽を聴いていこうという遠大なシリーズ。

  プロコフィエフ 歌劇「3つのオレンジへの恋」op.33

1916年の「賭博者」につぐ、残されたプロコフィエフ3番目のオペラ。
「古典交響曲」を経てピアニストとしても絶頂にあったプロコフィエフ、3番目のピアノ協奏曲を手掛けた。
最初は喜んで迎えた革命も、もしかすると音楽家としてこの先、ロシアではうまくやっていけないのではないかと不安になり、アメリカに発つ。
1918年5月に出発、夏までのアメリカ航路がないため、3か月間日本に滞在し、東京や横浜でピアノコンサートを行ったのはご存知のとおり。
プロコフィエフの作曲活動のなかでは、「放浪記」などと呼ばれもしますが、この間に得たいろんな体験は、さまざまな作品のなかに刻まれてます。

このオペラの原作は、1720年ヴェネツィア生まれの劇作家カルロ・ゴッツィの同名の作品。
ゴッツィは仮面劇のコメディア・デッラルテの作者で、寓話的な作品が多い。
かの「トゥーランドット」もこの人の作だし、ワーグナーの処女作「妖精」もゴッツィの「蛇女」という作品がベース。
しらべたら、ヘンツェもゴッツィ作をオペラ化してたりする。

皮肉やユーモア、風刺に満ちたゴンツィの作風をロシアの見せかけ的な自然主義に満ちた演劇界に対する反論として、演劇雑誌を出版していた劇作家のメイエルホリド。
プロコフィエフは、このメイエルホリドとも親交があったので、「3つのオレンジへの恋」を特集したその雑誌をアメリカへの渡航にも持参していた。
ロシア語訳されたものを、プロコフィエフ自身がフランス語で台本をしたためていた。
渡米後、シカゴでの演奏会が成功し、同時にシカゴ・オペラから新作を委嘱され、ちょうどよろしく、この作品であてがうこととなった。
1921年に完成、依頼主のシカゴオペラの代表の死などがあり、初演がやや遅れたものの同年暮れに初演された。

プロコフィエフのオペラによくあるように、登場人物が多くて主役級はいるものの、全貌の把握が難解で、音源だけでは理解が完全には及ばないと思う。
「魔法をかけられた王子が魔術師の宮殿に導かれ、3つのオレンジを盗み、そのうちのひとつから出てきた女性と恋に落ちて花嫁として迎える」
こんなたやもないお伽話。
「行進曲」ばかりが有名だけど、確かにこの行進曲が鳴り響くと快感を覚えるほどにはまりますが、そればかりでない、この時期のプロコフィエフ節が随所に炸裂。
全4幕、1時間50分ほどのちょうどよい短さ。
深刻さゼロで気軽に聴ける音楽ではありますが、古典への傾きとともに、野心的なモダニズム、高揚感もたらすリズム、クールなニヒリズムなど、まさにプロコフィエフならではです。

おとぎの世界だから変な連中ばかり出てくる。

  架空の王国の支配者♣の王  バス
  その王子           テノール
  王女 王の姪         メゾソプラノ
  首相レアンドレ        バリトン
  トルファルディーノ 道化   テノール
  パンタロン 王の顧問     バリトン
  チェリオ 魔術師の王の守護者 バス
  ファタモルガーナ 魔女    ソプラノ
  リネッタ オレンジ1号   コントラルト
  ニコレット オレンジ2号  メゾソプラノ
  リネット  オレンジ3号   ソプラノ
  スメラルディーナ 黒人奴隷  メゾソプラノ
  ファルファレロ 悪魔    ジェームズ・ウルフ
  クレオンテ 巨大な調理人  バス
  司会者           バス
  悲劇、喜劇、抒情劇、茶番劇のそれぞれ擁護者
  悪魔、廷臣、大酒飲み、大食い、怪物、兵士・・・・たくさん

こんな訳のわからん連中がうじゃうじゃ出てきて、まくしたてたり、わらったり、嘲笑したり、泣き叫んだりを大げさにしますよ。
舞台映像も数種観たけれど、かぶりもの、コスプレ、考え抜かれ凝りにこった装置など、見た目も楽しい、なにもそこまで的な愉快なものばかり。
しかし、劇も音楽も面白いけど、内容の深みは少なく浅薄に感じるんだよな~
前のオペラ「賭博者」はドストエフスキーの描いた人間のサガや、ロシア人の留まることをしらない没頭ぶりと、冷淡さを音楽でも見事に表現しつくしていた。
このあとに来る「炎の天使」の狂気すれすれの緊張感ともまた違う。

のちにプロコフィエフが語ったこと、「私が試みた唯一のことは、面白いオペラを書くことでした」。
まさに、この言葉につきます。
素直にこのドタバタ劇の奇想天外なストーリーを楽しみ、そこに軽やかまでに乗ったプロコフィエフの洒脱な音楽を楽しむに尽きるのであります。

物語りや人物たちに、いろんな比喩や風刺の意味合いを読み解くこともアリだとは思うけれど、私はそこまでのことをして、この愉快なオペラをひねくり回したくはない。
むしろ、ドネツクで生まれたウクライナのプロコフィエフという側面で、かつては
ロシア帝国の人だった彼が、ロシア革命を嫌い出て行った、そのプロコフィエフがこんな軽い仮面劇をベースにしたオペラを書いた。
アメリカに行けた解放感もあったであろう。
また思えば、ウクライナはロシア帝国の一部であり、音楽はチャイコフスキーもプロコフィエフも両国が同根であることを忘れてはいけないと思う。

ややこしいそのあらすじ

プロローグ

悲劇、喜劇、抒情劇、それぞれの役者たちがどんな劇をみたいのか争うが、おかしな人々も加わり、「3つのオレンジへの恋」を主張する。
伝令が登場し、クラブの王の息子の王子がうつ病になったと告げる。

第1幕
 
医者は王子が治る見込みはないと報告、絶望の王は、笑いによる奇跡の力を思い起こす。
顧問パンタロンは、道化師のトルファルディーノに助けを求め宮廷で余興大会を開催することとする。
王の座をねらう首相レアンドロは、これに反対

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王派の魔術師チェリオと首相派の魔女モルガーナがトランプ対決を行うが、チェリオは負けてしまう。
王の姪は、首相に王位をあたえ結婚しようとたくらむ、そのためには王子の病状を悪化させようと薬を盛るか、銃弾でやるかを首相にせまる。
これを聞いてしまった召使のスメラルディーナは、ふたりに捕まってしまうが、かわりにチェリオが後ろについてることと、モルガーナが助けてくれるだろうと進言し仲間になる。

第2幕

道化トルファルディーノがいくら頑張って笑わそうとしても王子は無反応。
王子を無理やり宮廷の広間に引き出す。
そこで始まる「行進曲」、さまざまな連中が入場してくる。

ばかげたダンスや出し物が演じられたにもかかわらず、王子は無反応で見事に失敗。
しかし、そこへ魔女のファタモルガーナが登場し、自分がいる限りは王子には笑いはないよ、と宣言。
トルファルディーノが警戒し、彼女が王子に近づくのを阻止しようと突き飛ばすと、派手にひっくり返ってしまう。
それを見た王子は笑い出してしまい、止まらない。

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怒ったファタモルガーナは、王子に対し「3つのオレンジに恋をせよ!」と呪いをかけてしまう。
王子は、クレオントの城にむけて、トルファルディーノを引き連れて出立する。

第3幕

魔法使いチェリオは、悪魔ファルファレロを呼び出し争うが、すでにトランプで魔女に負けているので敵わない。
そこへ王子とトルファルディーノがあらわれ、チェリオは、これから向かうクレオントの城では3つのオレンジを守っている料理女に気を付けろ、と魔法のリボンを渡す。
さらに、水のあるところでなければ、オレンジの皮をむいてはいけないと警告。

城に到着した二人は、不安で一杯。
そこへ大きな料理人がひしゃくを持って出てきて、行く手を阻止する。
トルファルディーノが魔法のリボンをみせると、料理人はリボンを気に入ってしまい、そのすきに王子は3つのオレンジを持って逃げる。

砂漠へ逃げた王子、オレンジたちはどんどん大きくなるが、疲れ切った王子は寝てしまう。
ぜんぜん起きてくれない王子の横で、喉が渇いたトルファルディーノはオレンジのひとつの皮をむいてしまう。
すると中から王女リネットがあらわれるが、彼女は飲み物を求める。
トルファルディーノは、ふたつめのオレンジの皮をむくが、その間リネットは死んでしまう。

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2つ目のオレンジからは、王女ニコレットがあらわれるが、彼女も飲み物を求めやがて死んでしまう。
困惑したトルファルディーノは逃げてしまう。
やがて眼をさました王子は王女の死を悲しみ、通りかかった兵士たちに、亡くなったふたりの王女の埋葬を依頼し、3つ目のオレンジに手をかける。
すると今度は違う王女、ニネットがあわられる。
彼女は愛を告白し、ふたりは恋に落ちるが、またしても喉の渇きを訴えるものの、そこへプロローグで出てきた「おかしい人々」が水を持ってきて、彼女は救われる。
王子は、ニネットを連れて宮廷に戻ろうとするが、こんな格好ではいけないわと言うので、立派な服を持ってくるよと言い残して去る。
そこへ召使のスメラルディーナとファタモルガーナが出てきて、リネットに魔法のピンを刺してしまう。
すると彼女はネズミに変ってしまう。
行進曲が聴こえ、王子が王様ご一行を連れて戻ってくると、スメラルディーナが自分が王女ですと名乗り出る。
王子はこんなの違うと言い張りますが、王は結婚を命じてしまし、首相と王の姪はほくそ笑む。

第4幕

チェリオとファタモルガーナがまたもや口論をして争うが、ここでまた「おかしい人々」が出てきて、ファタモルガーナを突き飛ばしてやっつけてしまう。

宮廷では王子の結婚式の準備が進んでいるが、王女の席にはネズミがいる。
チェリオが魔法を解いてあげると、そこには王女リネットが戻ってくる。
今回の謀反に気が付いた王は、3人の首謀者の処刑を命じる。
しょっぴかれる3人であるが、そこへファタモルガーナが出現し、3人を連れて姿を消す。

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国王と廷臣たちは、大いに喜び、王子と王女を新婚夫婦として祝福します。

          

荒唐無稽のありえへん物語ですな。
この寓話に、なにを見るか、なにが風刺されているかを考えたり、読み解くことはできるだろうか。
それは難解で、極めて無理難題なこじつけをするしかない。
音楽だけを聴くならば、プロコフィエフのナイスな音楽、ユーモアにあふれた音楽、行進曲など感覚を刺激する音楽を楽しむにつきる。
そして舞台映像としてはいくつかあるが、最新の技術で克服されたユニークで巨大な舞台装置や、登場人物たちの奇想天外な衣装や化粧などを、なにも考えずに観て楽しむにつきます。

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  架空の王国の支配者♣の王  ガブリエル・バキエ
  その王子           ジャン=リュク・ヴィアラ
  王女 王の姪         エレーヌ・ペラギャン
  首相レアンドレ        ヴァンサン・ル・テキシエ
  トルファルディーノ 道化   ジョルジュ・ゴーティエ
  パンタロン 王の顧問     ディディエール・アンリ
  チェリオ 魔術師の王の守護者  グレゴリー・ラインハルト
  ファタモルガーナ 魔女     ミシェル・ラグランジュ
  リネッタ オレンジ1号    ブリギッテ・フルニエ
  ニコレット オレンジ2号   キャスリーン・デュボスク
  ニネット  オレンジ3号   コンシュエーロ・カローリ
  スメラルディーナ 黒人奴隷   ベアトリス・ユリア=モリゾン
  ファルファレロ 悪魔    ジェームズ・ウルフ
  クレオンテ 巨大な調理人  ジュール・バスタン
   ほか多数

    ケント・ナガノ指揮 リヨン国立歌劇場管弦楽団
              リヨン国立歌劇場合唱団

       (1989.3~4月 リヨン)   

唯一持ってる音源。
いつもオペラを親しむすべとして、ともかくこのCDは何度も聴きまくりました。
海外盤なのでフランス語主体のリブレットは、英語訳でも字数がやたらと多くて難解。
だから、何度も聴いてその音楽を親しむのみ。

ナガノはこうした洒脱な作品には、抜群の切れ味を示します。
多くの演者を従え、難解なオーケストラも完璧に統率。
唯一のわずかな不満は、不真面目さがないことで行儀がよすぎること、遊び心が少なめなところ。

バキエやバスタンなど、懐かしい男声歌手。
リリックな王子役、芸達者な道化役や、かわいらしいオレンジ3号など、劇場でいつも歌ってる歌手たちのまとまりの良さも特筆です。
この音源には、スタジオ収録的な映像作品もあり、ネット上で確認もしましたが、やや時代を感じさせるもので舞台も簡潔なものでした。

ゲルギエフとマリンスキー劇場が日本でも上演していて、そのときの舞台がどんなものだったか、また音源は非ロシアのものばかりですので、ロシア人による演奏も気になるところです。

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  架空の王国の支配者♣の王  マルティアル・デフォンティン
  その王子           アラン・ヴェルヌ
  王女 王の姪         ナターシャ・ペトリンスキー
  首相レアンドレ        フランソワ・ル・ルー
  トルファルディーノ 道化   セルゲイ・コモフ
  パンタロン 王の顧問     マルセル・ブーネ
  チェリオ 魔術師の王の守護者  ウィラード・ホワイト
  ファタモルガーナ 魔女     アンナ・シャフジンスカヤ
  リネッタ オレンジ1号    シルヴィア・ゲヴォルキアン
  ニコレット オレンジ2号   アガリ・デ・プレーレ
  ニネット  オレンジ3号   サンドリーヌ・ピオー
  スメラルディーナ 黒人召使   マリアンナ・クリコヴァ   
  ファルファレロ 悪魔    アレクサンドル・ヴァシリコフ
  クレオンテ 巨大な調理人  リチャード・アンガス
   ほか多数

 ステファヌ・ドゥヌーヴ指揮 ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
                ネーデルランド・オペラ合唱団

       演出:ローラン・ペリー

       (2005  アムステルダム音楽劇場) 

DVDでの鑑賞。
これは実に面白かったし、いろんなアイデア満載で、しかも笑えました。
ペリーならではのお洒落でセンスあふれる舞台と、登場人物たちの自然な所作で共感を呼ぶ描写の数々。
そして衣装や舞台装置もデフォルメされつつ超リアルで、見ていてほんとに楽しい。
それらがプロコフィエフのリアリスティックな音楽に奥行きを与え、ファンタジー感もプラスしている。

ドゥヌーヴの明快な指揮がよい。
親日家のドィヌーヴ氏は、故小澤さんのオペラにおける弟子的な存在にもなりましたが、プロコフィエフのリズミカルな局面をとてもよくつかんでオランダのオケから鮮やかなサウンドを引き出している。
荒唐無稽なオペラの進行のなかにも、しっかりとした音楽性とオペラティックな雰囲気や呼吸をよく出していると思う。
ペリーの演出では、指揮者も演者のひとりとなり、道化のトルファルディーノがピットに降りて来たりで、愉快な場面を演じてました。

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王子の正妻役となるニネット姫を若きピオーが演じていて、その声の無垢な佇まいと、この役に与えられた可愛さを短い出番ながら完璧に歌い演じてました。
ほかの諸役も特色ある役柄をそれぞれユニークな存在として歌い演じて、誰ひとり穴がなくなり切っているところが面白い。
いつまでもパジャマ姿のヴェルヌの王子役と道化のセルゲイ・コモフのやりとりも愉快。
ウォータンのような杖を持ったウィラードの貫禄と強烈な声によるチェリオ。
ナターシャ・ペトリンスキーの悪役だけど、姪役が美人でなによりだった。

通常のDVDでの視聴だったが、ブルーレイでの視聴になれてしまうと、映像の輪郭の甘さが気になってしょうがない。
こうした作品こそ、ブルーレイ化して欲しいものです。

あと、音源や映像では、ゲルギエフ、ソフィエフ、ハイティンクなどがあり、とくにグラインドボーンでのハイティンクの着ぐるみ満載の舞台をなんとか見てみたい。



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