ワーグナー 序曲・前奏曲集 ネルソンス指揮
秋の日の空は高く、澄んだ空気が気持ちいい。
しかし、いつまでも気温は高く実感できない秋はこのまま終わってしまうのか?
そんなこと思いながら、またまたワーグナー。
ワーグナー 序曲・前奏曲集
アンドリス・ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(2016~20 @ゲヴァントハウス)
ブルックナーの交響曲全曲録音の一環に、その余白にカップリングされていたワーグナー。
全集を購入したついでに、自分でひとつのファイルにまとめて作曲年代順に聴いてみました。
「リエンツィ」序曲 (2020)
「さまよえるオランダ人」序曲 (2020)
「タンホイザー」序曲 (2016)
「ローエングリン」第1幕 前奏曲 (2017)
「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死 (2021)
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲 (2019)
「ジークフリート牧歌」 (2018)
「神々の黄昏」 葬送行進曲 (2018)
「パルジファル」 前奏曲 (2018)
2016年から5年間に渡る録音期間。
ネルソンスがゲヴァントハウスのカペルマイスターに就任したのが2018年なので、こうして聴いてみると、最初の頃の演奏の方が大胆でユニーク、最近のものになるほど、音楽の恰幅が豊かになり緻密にもなっているのがわかりました。
また母国ラトビアのリガの歌劇場の指揮者も務めていたこともあるように、オペラでの経験も豊富で、バイロイトではお騒がせノイエンフェルスの「ローエングリン」で2010年に登場し、その後は「パルジファル」も予定されたかがキャンセル。
コヴェントガーデンでも、ワーグナーをいくつか指揮しているので、45歳という年齢を考えれば、ワーグナー指揮者として今後も期待できる大きな存在といってもいい。
ゆくゆくは、バイロイトでのリングも期待したいところだが、復帰するティーレマンとの兼合いも・・・・
バーミンガム時代(2008~15)のネルソンスのスマートな姿は、そのままシャープな音楽造りに表れていたが、ここ数年の大きくなった、しかも髭面の恰幅いいネルソンスの音楽は、豊かになり、かつ掴みも大きくなり、よりドラマテックになったと思う。
ここに聴くワーグナーも、タンホイザーはまるで一幅の交響詩のようで、堂々たる構えを持ちつつ切れ味も抜群。
しかし、バイエルンでペトレンコが指揮した同曲は、快速でありながら中身がギッシリと詰ったオペラティックな演奏だった。
このように、これらのネルソンスのワーグナーは、ブルックナーの余白を意識したようなオーケストラピース的なあり方としての演奏に思った。
一番新しいトリスタンの演奏は、極めて美しく、ゲヴァントハウスの優秀さ、対抗配置の弦の素晴らしさを実感できるし、ここには情念的なもの、こってりした高カロリーのワーグナーはなく、洗練された高度なオーケストラ演奏の鏡のようなものを感じる。
リエンツィでも勇壮さは遠く、ノーブルさもあり、パルジファルもすんなり美しい。
批判するともなく、褒めることもない内容になってしまったが、これがいまの世界トップクラスのオーケストラ演奏なのだ。
より高性能のもうひとつの手兵、ボストン響とやってもこのように美しいワーグナーが出来上がるだろう。
言いたかったのは、ゲヴァントハウスのオーケストラ、かつてのコンヴィチュニーの指揮で聴き親しんだあの音はどこへ行ってしまったんだろう、ということ。
そりゃもちろん、半世紀以上も経ったいま、生き物でもあるオーケストラが同じ響きや音色を出すこと自体がありえないことだろう。
しかし、コンヴィチュニーで聴くベートーヴェンやシューマン、ブラームスは自分にドイツのオーケストラそのもののイメージを与えてくれていた。
豊かな低音域に、渋めの中音域に彩られたその音色は、ちょうどいま聴きなおしてもみたが変わらずに素晴らしい。
このゲヴァントハウスの音が変ったのは、マズアあたりからだろうか。
80年代以降は、ヴィンヤード型の現代的な新しいホールも出来て、録音で聴く音色の変化も明らかになったと思う。
ブロムシュテット、シャイーと指揮者が代わっていくなか、ゲヴァントハウスも変わっていった。
トマス教会でのバッハも、歌劇場のピットのなかでも、シャイーの指揮で聴くそれぞれは、あのゲヴァントハウスとは違ってしまった。
コンセルトヘボウがシャイーで変化したのと同じ印象だ。
地図をみるとわかるように、同じザクセン州にある近くのドレスデンは、イタリア人指揮者をこれまでも迎えつつも変わることなくドレスデンだった。
重心の低い演奏をすることもあるネルソンスが、今後、ゲヴァントハウスとボストンで、どんな演奏を残し、オーケストラをどのように導いていくか、ともに名門オケだけに責任重大だとおもうのだ。
ドレスデンはチェコとポーランドにも近く、南ドイツのミュンヘンはもっと下の方で、同じくオーストリアもドイツからしたら南の国。
こうして飽くことなく地図を眺めるのが好きです。
こちらがライプツィヒの文化の中心地で、ゲヴァントハウスとオペラハウスは至近で、近くにはメンデルスゾーンの家もある。
そしてトマス教会も見えていて、この3か所でゲヴァントハウスのオーケストラは忙しく活動しているわけです。
今後のこのコンビに期待するとして、これらのワーグナーのなかで、いちばん気に入ったのが「ジークフリート牧歌」でありました。
愛らしく幸せな音楽が、キリリと引き締まった演奏で、まぎれもないリング作成中のワーグナーの音楽であることがよくわかる本格演奏。
オーケストラとの親密な雰囲気も感じさせるのも桂演、よきコンビの証。
肝心のブルックナーの方は、まだ全部聴ききれてませんが、いつかまとめたいと思います。
それにしても、アニバーサリーとはいえ、コンサートもCDもブルックナーばかりで大杉。
冬の煌めきとは違う、秋の宵の明星🌟
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