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2025年2月11日 (火)

エデット・マティスを偲んで

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またしても訃報が・・・

エデット・マティスが亡くなりました。

2月9日、ザルツブルクにて、享年86歳。

次の誕生日を迎える2日前とのこと。

もうそんなご年齢だったのか、と哀しみとともに驚きも禁じ得なかった。

そう、マティスはその若々しく可愛いお声でもって、ずっと自分の若かった時代をともにしたような歌手でしたから・・・・

ルツェルン生まれのスイス人で、なんといってもモーツァルト歌手というイメージが強い。

録音の多さも数知れず、多くの指揮者に愛され、夫君のベルンハルト・クレーとの共演も多かったです。

モーツァルトを中心に、マティスさんのいくつかの歌声を聴いて偲びたいと思います。

Figaro-bohem

ベーム指揮の「フィガロの結婚」
ケルビーノを持ち役でスタートして、ほどなくザ・スザンナと呼べるほどに、歌声も舞台姿もまさにマティスにぴったりの役柄。
プライとのコンビもばっちりで、これはわたしには永遠のフィガロ盤です。
ずっと後年、伯爵夫人も歌うようになったのは、ルチア・ポップと同じですが、やはりマティスはスザンナ。

モーツァルトのオペラでは、イドメネオ(イリア)、パミーナなどが素敵すぎますね。

Damnation-de-faust-ozawa_20250211111101

魔弾の射手のエンヒェンも素敵な持ち役ですが、わたしが案外に好きなのは、ベルリオーズのファウストでのマルグリートです。
こうした無垢なヒロインはマティスのうってつけだし、フランス語も可愛いし、ミステリアスなベルリオーズの音楽にも合います。
小澤さんも亡く、みんないなくなってしまう・・・・

Bach-bvw199-richter

リヒターのバッハでもたくさん共演してました。
カンタータ199番「わが心は血の海に漂う」は、ソプラノソロのカンタータの名品ですが、ここでのマティスのシリアスで言葉に心血を注いだようなな歌唱は、いまこのとき、とても心を打ちます。
古楽が主流となったいまのバッハ演奏ですが、リヒターの60~70年代のこの時代の演奏は、厳しい造形がそのまま音になっていて思わず襟を正さざるをえない。

Brahms-barenboim

ジャケットが70年代にすぎますが、若きバレンボイムのドイツ・レクイエムでのマティス。
これがほんとに美しくも無垢なのです。
老練なF=ディースカウとの対比もよいし、バレンボイムとロンドンフィルの作りだす以外にも渋い音楽にも一幅の可憐な花のようです。

Schumann-mathis

シューマンの「女の愛と生涯」
エッシェンバッハと録音したシューマンの歌曲はいずれも絶品で、ドイツ語の美しさが際立ち、揺れ動く感情の機微を愛で優しく包み込んでしまうような、そんな優しい歌声なんです。
ヴィブラートのほとんどない、まっすぐのお声が、実に麗しい。

Rosen-bohem

スザンナを歌っていた頃のマティスに相応しかったのが、ゾフィー役。
ベームのライブ盤では、素敵な可愛いゾフィーが聴かれます。
トロヤノスのオクタヴィアンとの声の対比もばっちり。
大人になってゆく若い女性の描き方も素晴らしいのです。
 シュトラウスでは、あとアラベラでのズデンカが持ち役でしたが、こちらは正規音源ないかも。。
そして自分にとって忘れえないのが、「4つの最後の歌」。
夫君のベルンハルト・クレーとN響にやってきて歌った。
それをエアチェックして何度も何度も聴いた高校時代。
その絶美の音楽に感嘆し、シュトラウスに目覚めていった・・・
大切なカセットテープは失われてしまい、その音源の自家製CDRもどこかに消えてしまった・・・

Mozart_mathis

ピアノの名手でもあった指揮者のクレーも、モーツァルトの指揮とピアノにかけては素晴らしいものがありました。
このモーツァルト歌曲集は、わたくしの若き日の、エヴァーグリーン的なモーツァルトの1枚。
シンプルだけれども深みのある歌曲、「ラウラに寄せる夕べの想い」をしみじみと聴きます。

バッハ、モーツァルトからマーラー、ヴォルフまで、ドイツの歌の神髄をその優しくピュアなお声でたくさん聴かせてくださいました。

Mozart-requiem-bohem

ベームとの名品、モーツァルトのレクイエムを聴きながら追悼記事を閉じます。

エデット・マティスさんの魂が安らかでありますこと、お祈りいたします。

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コメント

 お久しぶりです。
 マティスさんのご逝去をこちらのブログにて初めて知り、追悼の念に駆られています。私には、一世代上の名歌手だったため、モーツアルトのフィガラオの結婚とレクイエム以外はあまり聞いたことがありませんでした。でもその清澄で端正、しかも説得力のある歌唱にはいつも尊敬の念を抱いておりました。今の時代に、こういう名歌手が出にくくなったことを深く嘆いております。
 
 今晩はゆっくりマティスさんの歌声を聞きたいと思っております。貴重なCD情報ありがとうございました。
 (家のどこかに彼女のモーツアルトの歌曲のCDがあるはずなんです。)

 話は全く変わりますが、4月にサントリーホールでのリセット・オロペサさんのコンサートに行く予定です。ローマ歌劇場との来日の時の椿姫と昨年のMETオケとのモーツアルト歌曲に感動したからです。
 マティスさんをしのびながら、今の時代の名歌手にも触れてくる予定です。

投稿: beaver | 2025年3月 8日 (土) 18時50分

beaverさん、こんにちは。
マティスさんの訃報は、あまりに突然でした。
毎朝、海外の音楽放送サイトを巡回して1日を始めますが、BR放送のサイトで、いきなり彼女の画像が出てきたのでまさか!との思いでした。
ルチア・ポップとならんで、すてきな、可愛いソプラノで大好きでした。
ときおり、親しんできたいろんな歌手のみなさんがご健在か、調べたりもしてます。
指揮者と違って歌手は引退すると、近況がわからなくなりますから。

で、オロペサさん、私も好きな歌手です。
今年のリサイタル、前から検討してはいたのですが、私事が重なり断念してます。
メットでの「つばめ」でのリゼッテが本格デビューだったかと思いますが、ライブビューイングで視聴して、素敵な歌手だなと思ってました。
日本びいきの様子で、来日をとても楽しみに語ってる様子も拝見しました。
リサイタルお楽しみください!

投稿: yokochan | 2025年3月13日 (木) 10時53分

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