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2025年4月27日 (日)

神奈川フィルハーモニー 定期演奏会 沼尻竜典 指揮

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ちょっと涼しかった横浜。

世間はゴールデンウイーク初日とのことで、一大観光地でもある横浜・桜木町界隈は大賑わい。

ツツジの花、まっさかりのみなとみらい、神奈川フィルのシーズン・オープニング定期演奏会を聴いてきました。

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   神奈川フィルハーモニー管弦楽団 第405回定期演奏会
 
 バツェヴィチ 弦楽オーケストラのための協奏曲

 ショスタコーヴィチ チェロ協奏曲第1番 変ホ長調 op.107

   ブリテン   無伴奏チェロ組曲第2番~シャコンヌ

       チェロ:上森 祥平

 ショスタコーヴィチ 交響曲第12番 ニ短調op.112 「1917年」

    沼尻 竜典 指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

                       コンサートマスター:石田 泰尚
 
                               (2025.4.26 @みなとみらいホール)

ご覧のとおりのなかなかに攻めた感じの果敢なプログラム。
アニバーサリーのショスタコーヴィチはともかくとして、ポーランドの女流作曲家グラジナ・バツェヴィチ(1909~1969)、いま世界的に取り上げ始めたブレイク中の作曲家。
私も音源を揃えつつあり、徐々に聴き始めております。
名前が似ててややこしいクロアチアのドーラ・ペヤチェヴィチ(1885~1923)、英国のエセル・スマイス(1858~1944)、アメリカのフローレンス・プライス(1887~1957)の3人とともに、よく聴く女性作曲家となってます。

1949年の作品である弦楽協奏曲は、のちの交響曲や協奏曲が中期以降のシマノフスキを思わせる先鋭・オリエンタルな雰囲気を持つのに比べ、聴きやすい保守的な作風で、バロックな形式を持つ作品。
各パートのソロもふんだんにあり、そこが協奏的であり、この日の神奈川フィルの弦楽セクションにぴったりの選曲でありました。
男前の音楽造りのバツェヴィチ、颯爽としたユニゾンで始まる1楽章からして、キリリと明快な演奏でばっちりと決まりました。
この日のチェロ首席、山本さんと石田コンマスとの絡みあいも、ずっと聴いてきたかなフィルファンとしてはうれしく、その音色がまた美しいのでした。
バルトークをも思わせるミステリアスな2楽章では、チェロソロに、ヴィオラソロも効果的にあり、なかなかに聴かせる音楽でありひんやりしたなかにも繊細な演奏でした。
快活で洒脱な雰囲気の3楽章は、各ソロと弦楽との掛け合いが楽しく、奏者のみなさんも気持ちよく演奏しているのがわかります。
佳曲、桂演でした!
石田&山本コンビ、帰ってきた神奈川フィルのかつての顔。
やはりかなフィルの弦は、このふたりがいることでその繊細さ美音、加えて攻める積極性も出てくるんだと痛感しましたね。

こうした多くの方が初聴きの曲を取り上げることは、聴き手の集中力や好奇心を引き立てる意味でも大いに意義のあることです。
バツェヴィチのもうひとつの弦楽オケ作品であるディヴェルティメントは、オールソップとポーランド国立放送響の今秋の来日の演目に入って増して、興味があるんですが他の曲がね・・・・

現在の神奈川フィルの首席チェロである上森さんによるチェロ協奏曲。
いきなり始まるくり返し効果抜群の第1主題は、めんどくさい人ショスタコーヴィチを代表するようなメロディで、一度聴いたら忘れられないし、ソロカデンツァ楽章と最後にまたやってきて、この作品を忘れがたくしてくれる。
オケの日頃の仲間と聴き合いながらの上村さんのチェロは、ゴリゴリ弾くタイプではないと感じ、軽やかな1楽章となり、さらに木管の合いの手も素晴らしく、なんといってもこの日素晴らしかった読響からの客演ホルンの松阪さんの存在感が際立っていた。
痛切な2楽章が、この曲の肝だと思い、じっくりと聴きましたが、オケとともに悲壮感を盛り上げていくチェロソロに耳が釘づけに。
謎に満ちたチェレスタが効果的に鳴らされるところも、ライブだとよくわかりますね。
ショスタコーヴィチの緩徐楽章に共通する意味深でありつつ、どこかひねてしまった複雑さを、楽譜に忠実に変な思い入れもせずにしっかり聴かせることで、シリアス度合いがより高まったのだと思いました。
その後に続く長いソロカデンツァは、もう息を殺すようにして聴いたし、ホールの皆さんも1点集中でまんじりともせずに、技巧にあふれた上村さんの演奏を聴いた。
なんという緊張感あふれる音楽を書いてくれたんだろうか、ショスタコさんよ。
ところが一転、終楽章では情熱がほとばしり、爆発するようなオケとソロのぶつかり合いの展開になる、こんなところもショスタコさんの面白きところか。
ホルンを始め、洒脱なクラリネットや耳をつんざく木管に導かれ、例の主題であっけないくらいの結末。
ソロもオケもみんな大変なのでありましたが、息のあったコンビと、沼尻タクトの真摯な統率力で完璧な演奏となりました!

アンコールでは、波の図柄(北斎の神奈川沖?)のはっぴをまとって登場の上村さん。
まるで先のカデンツァの続きかと思わせるような集中力と緊張度の高いブリテンを弾きました。

後半はショスタコーヴィチの12番。
11番との姉妹作であり、粛清の悲劇を劇的に描いた前作に次いでの十月革命を描いたプロパガンダ的な音楽。
ソ連系の時代の演奏は前世の遺物と化し、いまや西欧系の純音楽系解釈によるシンフォニックな演奏が主体となったわけだが、この日の沼尻&神奈川フィルはまさに都会的ともいえるスタイリッシュなショスタコーヴィチで、オーケストラを聴く喜びと快感をも味わわせてくれるものだった。
それほどまでに、完璧で鉄壁のアンサンブルと、奏者のみなさんの優れた技量のもと、クールで鋭利なナイフのようなキラつくサウンドだった。
荘重な低弦の出だしから、速度をあげてすぐさまにクライマックスにいたる、その間のスピード感のよさも感嘆。
 殺伐とした緩徐楽章で木管や金管のソロが吹いては消え、また出てくるといったつかみどころのない雰囲気に、ドラが重々しくなり、そこへトロンボーンの一節が入るシーンなど、まさにライブでオケを見ながら聴く楽しみだ。
こうした沈滞ムードの作り方も精妙な指揮とオケあってのもの。
 一転、激しすぎる3楽章に聴衆はびっくりだ。
うるさくなりすぎないのもこの日の沈着な演奏だっただからだろう。
もっとハチャムチャな演奏もできたかもしれないが、そうした空虚なことはしないし、できないのがこのコンビか。
しかし、ここでの打楽器と金管の大活躍は目を見張るものあり、正直面白かった!
 さて全体総括ともいうべき終楽章は、それこそが虚しい音楽だろう。
妙に明るかったりして、勝利の兆しを見せるのであるが、このあたりの七変化ぶりも神奈川フィルのみなさんの確かな技量で楽しめた。
クレッシェンドしていって高まるクライマックスは耳の御馳走だし、すべての音が明確に聴こえるのも沼尻さんの耳の良さとオペラに精通した構成力のなせる技。
でも、ブラスの咆哮とファンファーレ、晴れやかな弦楽器、ティンパニや太鼓の痛烈な連打など、やればやるほど虚しい音楽なのである。
笑っちゃうくらいにすごかったが、でもそこに何があるんだろ・・・
そう思いながら、神奈川フィルの超熱演を聴いていた。
 すごい歓声とブラボーにつつまれたみなとみらいホール。
オケと指揮者にはブラボーであるが、わたしには12番はなんだかなぁ~という気持ち。
鳴りやまぬ拍手に応え、オケがひいたあと、沼尻さんは呼び出され声援に応えてました!

そうそう、拍手が始まって間もなく、席を急いで立つ方多し。
みなさん、渋谷へN響のマーラー3番へと急いだのでしょう。
サントリーホールでは「仮面舞踏会」、オペラシティでは読響、首都圏の音楽シーンはすごいんです。

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明るい曇り空のみなとみらい。

左奥の大桟橋には、大型クルーズ船が停泊中で、ノルウェー・ジャンスピリットです。
ほかにも何隻か停まっていて、外国人がいつにも増して多かった気がしますね。

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がんばってくれよ、横浜大洋ホエールズ・ベイスターズ。

思い切り楽しめた神奈川フィルの演奏会。

やはり石田組長がトップに座ると、かつては立つくらいに踏む込んだ弾きっぷりをみせたのですが、それでも楽譜に食らいつくようにして全霊を込めて奏でるその姿が楽員すべてに伝播し、音そのものにやる気とかなフィル独自の繊細な美音が出てくる。
それを支える山本さんが、この日はいたので、私がかねてずっと聴いていた頃のままの音と雰囲気が再現されたと思う。
その頃から変わらない楽員さんも多くいらっしゃり、この日はご挨拶もせず早々に引き上げましたが、実力ある若い方の増えた神奈川フィルの新しい音も十分に感じ取れました。
 ほんとうに素晴らしいオーケストラだし、身近にいつもあるわが街オーケストラとして、これからも演目を選んで聴いていきたいと思います。

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コメント

yokochan様
思わず『う~ん!』と、唸らざるを得ないプログラミングですね。音盤や放送で、ある作曲家の作品に耳年増になっていても、やはり一回限りの実演に接する醍醐味は、筆舌に尽くしがたいものが、ございます。
私めは、この作曲家の『交響曲全集』は、カプリッチョ・レーベルの、キタエンコ指揮ケルン・ギルツエニヒ管弦楽団(49545)しか持っておりませんので、あまり偉そうな事は申せませんが、実演はやはりゾクゾクさせてくれるとは、思います。
私めの住居地域でも、それなりの催事はございまして、去る4月19日に神戸文化ホールでの、神戸室内管弦楽団第167回定期は、『追憶のショスタコーヴィチ』と題され、ヴァスクスの合唱曲『我らに平和を与えたまえ』が冒頭に置かれ『ヴァイオリン協奏曲第2番嬰ハ短調』、『交響曲15番イ長調』が取り上げられました。指揮者はラトヴィア出身のアンドリス・ポーガ、ソロは松岡井菜、共に若手ながら深みのある解釈と卓越した技術で、唸らされました。残念でしたのは、ざっと見渡した限りでは客席の入りが、四割五分程度だった事でした。
しかし個人的には、めったに実演で聴けない曲目の名演に接し得て、すこぶる満足しました。ではまた。

投稿: 覆面吾郎 | 2025年5月 3日 (土) 07時24分

ショスタコーヴィチ主体のコンサートが、かつてでは考えられないほどに世界中であたりまえとなりました。
アニバーサリーはともかくとして、かつて若杉さんが、ポストマーラーとして、名前をあげておりましたが、まさにいまその時代が来てる感じです。
ショスタコ交響曲全集も手持ちで4種となりましたが、ブルックナーやマーラーと同じようにショスタコーヴィチを振れる指揮者というのが当たり前になってきたと思います。

お聴きになられたコンサート。
15番はとても深いものを最近感じてまして、緩徐楽章には痺れます。
ポーガ氏もショスタコをかなり指揮していますね。
N響でもやるはずです。
よき演奏会をお聴きになられましたね!

投稿: yokochan | 2025年5月16日 (金) 09時37分

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