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2025年6月26日 (木)

アバドのワーグナー

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もうシーズンは終わってしまいましたが、秦野市の公園のバラ園。

AIの助けを借りて、空を加工して丹沢の向こうに虹をかけてみました。

バラの品種は「マリア・カラス」

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もう1枚、虹を出現させてみました。

6月26日は、クラウディオ・アバド生誕92年の日です。

1933年にミラノで生まれ、2014年にボローニャで永眠。

今年の生誕祭は、ロッシーニでも行こうかと思っていたら、「ラインの黄金」の素晴らしい演奏を聴いたばかりで、頭が完全にワーグナーになってしまっている。
よく食べ物なんかでも、口が〇〇になっちゃってる、といって他のものを食べたくなくなることありますね。
まさにそれ、「アバドのワーグナー」です。

若いときから、ロッシーニとヴェルディは演目を選びながらも積極的に指揮してきたアバド。

ローエングリン

では、ワーグナーはどうだったかというと、極めて慎重だったと思いますが、そこはアバドらしく、ずっと若い時から本格取り込みの準備と機会を暖めていったと感じてます。
スカラ座の音楽監督だったとはいえ、ベルクやムソルグスキーばかりだと聴衆や運営サイドの不満を得るだろう。
だからアバドのピットでの初ワーグナーは、1981年のシーズンオープニングの「ローエングリン」で、スカラ座での活動時期の終盤にあたる頃でした。
この年に、アバドはスカラ座を率いて歴史的な来日公演を行いました。

Scala-2

「スカラ座の黄金時代」というドキュメントDVDで、スカラ座のローエングリンのリハーサルやタイトルロールのルネ・コロの歌などを観ることができます。
1981年12月、翌年の4月、ストレーラーの演出、コロのほかは、トモワ・シントウ、コネル、ニムスゲルン、ハウクラントといった歌手。
コロは2回だけの出演で、イェルサレムとP・ホフマンに替わってます。
音はあまりよくないですが、ネット上で聴くことができますが、スカラ座のピットでは熱く燃えるアバドだったので、ローエングリンの登場シーンなどなかなかスリリングで手に汗握る雰囲気です。

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当時、レコ芸のイタリア通信を毎月ワクワクしながら読んでいて、このあとアバドはワーグナーにガッツリ取り込んでいくかと思ったら、そんなことはなくこの年の上演で、スカラ座はおろかほかでも取り上げませんでしたね。
唯一、83年夏にエディンバラでロンドン響と2幕のみを演奏していて、こちらはNHKで放送されたので、いまでもエアチェック音源として大切にしてます。
アバドはローエングリンの2幕の持つ「光と陰」の性格に着目していたものと思います。
深い洞察を持って、登場人物たちの心理に切り込み、一方でエルザの教会入場のシーンなどは、思い切り輝かしく演奏してます。

スカラ座からウィーンに移ったアバドは、90年に国立歌劇場でローエングリンを上演しました。
このときの映像が出てはいますが、画質がよくなく、ブルーレイ化を望みたいものですが、私はドミンゴのワーグナーがあまり好きでないので、そこだけがどうも浮ついていて違和感を感じます。

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92年にムジークフェラインでスタジオ録音されたものは、アバドとしてはイェルサレムにローエングリンを変えたことで、落ち着きと安定した歌唱の雰囲気の均一化が図られたことで、透明感とともに柔らかで精緻なワーグナー演奏を打ち立てることができたものと思います。
もし、80年代にロンドンでローエングリン全曲が録音されていれば、それはまたアバドならではの鮮烈な演奏になっていたかと・・・・

トリスタンとイゾルデ

長い活動歴にあって、アバドはワーグナーをいつから指揮をしているか?
いつもお世話になっておりますclaidio abbado 資料館様のデータを参考にして調べてみました。

いちばん最初に指揮したのは「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死です。
1971年のレコ芸の注目の指揮者特集で、高崎保男氏がアバドに関して投稿していて、ヨーロッパでアバドの指揮をいくつか聴いてきて、有望な若手の筆頭として書かれていた。
そこにあったのは、ニュー・フィルハーモニア管でトリスタンを聴いたとあり、当時、もうアバド好きだったワタクシは、アバドがトリスタンを指揮していたということへの驚きと聴いてみたいという願望でありました。
その演奏データが1968年のエディンバラとルツェルンでの演奏会のものでした。
さらにさかのぼると、1962年にローマのチェチーリア管、63年にフェニーチェ座のオケで、前奏曲と愛の死を指揮してました。
あとは70年にフィラデルフィアで前奏曲と愛の死をとり上げたぐらいで、その後は長くあたためて、97年に全曲演奏を見据えてウィーンフィルと演奏。
98年の11月にベルリンでコンサート形式で全曲演奏、これが本来正式録音として残されるものだったかもしれない。
99年にザルツブルクイーズター祭で舞台上演、翌年の夏のザルツブルクではウィーンフィルと演奏予定だったが、キャンセル。
その後に病魔に冒され療養に入り、2000年11月と12月に東京での全曲上演となりました。

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ローエングリンよりも早くから手掛け、98~2000年に最高のトリスタンを作り上げたアバド。
ワーグナー諸作のなかにあって、やはりトリスタンを一番愛したのがアバドであったと思います。
日本における「アバドのトリスタン」の上演を体験できたことは、スカラ座との「シモン」、ベルリン・ドイツ・オペラの「リング」とともに、生涯忘れえぬ最高のオペラ体験だと思ってます。
最初から最後まで、張り詰めた緊張が途切れることなく、オーケストラも歌手も、すべてがアバドのために演奏し歌っているかのように献身的だった。
終わらないで欲しいと願いつつ、「愛の死」が静かに終結したとき、私は涙にくれてました。
そしてカーテンコールで登場した痩せ細ってしまったアバドにショックを受けた。
もう、ゆっくり休んで欲しいとまで思ったのですが、優しい笑顔と鋭い眼光はいつものアバドでした。
2004年にルツェルンで2幕のみを演奏。
ここで年をまたがってもよかったので、気の合う最強オケと全曲を残して欲しかったものです。

ニュルンベルクのマイスタージンガー

トリスタンと同様に、若い頃から前奏曲だけを指揮してきた。
73年のウィーンフィルとの来日ではアンコールとして演奏、それ以外に70年代はウィーンやロンドンで頻繁に演奏。
92年のウィーンでの演奏は、ベルリオーズのテ・デウムとともにDVD化されてるし、翌年のベルリンフィルでのジルヴェスターコンサートでは、ワーグナーガラとして、そのプログラムのなかで演奏されました。
明るいハ調の音楽はアバド向きの曲だし、ウィーンもベルリンも晴れやかな気分にしてくれる大好きな演奏です。
ゆくゆくは、マイスタージンガーの上演も頭にあったようですので、ベルリンでの活動を継続できなかったことは、その点では残念なことです。

パルジファル

アバドが最後に取り組んだ作品が「パルジファル」
ローエングリンに始まり、パルジファルに帰結。
音楽的にはトリスタンの先にあったパルジファル。
ほかの作品のように前奏曲などを演奏しながら全曲にいどむということなく、いきなりベルリンで演奏会形式で全幕を指揮。
東京トリスタンから1年後の2001年の11月。
この演奏はCDR化されていて、やや音の揺れはあるが録音はほぼ万全。
非正規であるので問題ありだが、ここに聴くアバドの無為な姿勢が病後にベルリンフィルとの関係と信頼が一段と深まったことにより、透明感と精緻さにあふれたラテン的な明晰な演奏となっている。
秋にベルリンでコンサートスタイルで演奏し、翌春のイースター音楽祭2002で舞台上演するといった、カラヤン時代から継承されたベルリンフィルのオペラの演奏スタイル。
願わくば、正規録音として残して欲しかったものですが、このザルツブルクでは別途タンホイザー序曲とパルジファルの3幕からの組曲編を録音してまして、これが唯一の貴重なパルジファル正規音源となりました。
同じ2002年には、オーケストラをマーラー・ユーゲントオケに変えて、ミュンヘン、エディンバラ、ルツェルンでもコンサート形式上演をしてます。
新ウィーン楽派の音楽をこよなく愛したアバドにとって、パルジファルは同じく愛したドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」にも通じる抑制の効いた繊細な音楽として、それをいかに精妙に明晰に聴かせるかということにおいて、おおいに共感を抱いていたのではと思います。

ジークフリート牧歌

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これもアバド向きの作品とも若い頃から思っていたけれど、案外とやってくれなかった。
ヨーロッパ室内管との演奏が忽然と登場したときは、アバドがやっていたのを知らなかったので驚いたものです。
88年のルツェルンでのライブ、清潔で幸せな、よく歌う演奏でした。
ベルリンフィルでは97年に取り上げていたようですが、ウィーンやロンドンでは演奏せず。

ファウスト序曲

案外とこの若書きのワーグナーのシリアスな作品も、アバドは得意にしてました。
1983年にロンドン響、ウィーンフィル、ECユースオケ、シカゴ響でそれぞれ演奏。
そのあとは93年と99年にベルリンフィルで。
手元にある99年の放送録音は、音もよく、ほどよい深刻さもあり、なかなかに良い曲だと思わせる演奏です

ヴェーゼンドンク歌曲集

ほぼ指揮せず、演奏会でのアバド最後のワーグナーとなったと思われる2006年のベルリンフィルへの客演で、ゾフィー・オッターの歌唱で取り上げてます。
この演奏は放送もされなかったと記憶しますが、同時に演奏されたシューマンのマンフレッド全曲とともに希少な演奏記録となったのでは、とまたも残念がるわたくしです。

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すり減るほどに聴いた1993年ジルヴェスターコンサート。
当時はNHKで生中継されたのでビデオ録画しながら、大晦日に正座しながら視聴し、興奮の年越しを過ごしましたよ。

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2000年11月の前奏曲と愛の死は、日本に来る直前の演奏で、あのときの凄演を偲ぶよすがとなります。
タンホイザーとパルジファルは2002年のザルツブルクライブ。

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ブリン・ターフェルのワーグナー集に贅沢にもアバドとベルリンフィルを配したDGの当時の意気込み。
こちらも日本に来る前の2000年11月と、パルジファルなどは2001年の5月の録音。
いまでは角が取れてより練れた声や表現で円熟期にあるターフェルだが、この頃は意欲満々、歌いすぎ、アクもやや濃すぎで、アバドの求めるワーグナーとはちょっと違うのでは、と思う1枚。
しかし、オランダ人序曲やガラに次いで2度目のマイスタージンガーのザックスのモノローグ、さらにはアバド唯一のワルキューレのウォータンの告別などが聴ける。
告別での壮麗な夕景を見るような演奏はわたくしには涙ものです。

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2008年12月の録音。
いまをときめくカウフマンのバックを務めた1枚で、文字通り最後のワーグナー。
ローエングリンの名乗り、ジークムントの冬の日は去り、パルジファルのアンフォルタスと役立つのはただひとつの武器。
マーラーチェンバーオケを指揮して室内楽的な精妙極まりない、無垢の域に達してしまったパルジファルが聴ける。

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ずっと聴いてきたクラウディオ・アバド。

放送音源など、そろそろ驚きの新譜など出てこないものかな。

アバド生誕祭 過去記事一覧

「ロメオと法悦の詩 ボストン響」2006

「ジルヴェスターのワーグナー」2007

「ペレアスとメリザンド 組曲」2008

「マーラー 1番 シカゴ響」2009

「ブラームス 交響曲全集」2010

「グレの歌」2011

「エレクトラ」2012

「ワーグナー&ヴェルディ ガラ」2013

「マーラー 復活 3種」2014

「シューベルト ザ・グレート」2015

「新ウィーン楽派の音楽」2016

「メンデルスゾーン スコットランド」2017

「スカラ座のアバド ヴェルディ合唱曲」2018

「ヤナーチェク シンフォニエッタ」2019

「スカラ座 その黄金時代DVD」2020

「ランスへの旅」2021

「アバド&アルゲリッチ」2022


「ヴェルディ ファルスタッフ」2023

「アバド&ロンドン響」2024

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コメント

今年も無事この日を迎えられました。
アバドの誕生日。
yokochanさんは今年はロッシーニで攻めるのかなぁ……、
と思っていたら、んー、惜しいw

2000年初頭のワーグナーのCDは、アバドに目覚めた直後に手に入れたCDでして、
それこそ、ウォークマンにおとして、家事をしながら、仕事に行く途中車の中で、風呂に入りながら、寝る前と、聞きまくっていました。アバド初心者中の初心者だったあの頃は、アバドのワーグナーが意外で、でも、何回も聴きたくて、もしかして私の中のワーグナー決定版じゃね?なんて思ったものです。
パルジファルに結構ハマって、これは全曲聴かなければ、と決意を新たにしたものです。

去年の10年目の年、みんなびっくりの音源がでてくるのでは⁉️
と期待してきたのですが、無事2025年に突入してしまいました😂

それでも、アバド愛冷めやらぬ初心者の私、まだまだ(特にオペラ、協奏曲)未聴ものも多いので、yokochanさんのナビで聴いていきたいと思ってます。
これからもアバド記事、よろしくお願いします。

投稿: にょろふきん | 2025年6月27日 (金) 17時11分

にょろふきんさん、こんにちは、コメント遅くなりました。
暑くてまいってます。

さて、ご明察のとおり、ロッシーニのオペラで行こうと思ってましたが、頭からワーグナーが離れず、かくなる仕儀となりました。
アバドのワーグナーは、暑い夏でも厚ぼったくなく、爽やかなのでありまして、こんなワーグナーをできる大家はかつてはいなかったと思います。
驚きの音源、期待としては、トリスタン、パルジファル、マタイです。
加えてスカラ座やウィーンでのオペラの数々、もうキリがありませんね。
そんな期待を、無想するのも、アバドを愛するわれわれの残された喜びなのであります。

まだとりあげてないアバドの音源や映像、これからも書いていきますので、こちらこそよろしくお願いします。

投稿: yokochan | 2025年7月 2日 (水) 11時57分

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