サマーミューザ 東京交響楽団 ノット指揮
暑い夏、始まりました、日本の首都圏オーケストラの祭典、サマーミューザ。
今年は九州交響楽団が登場しましたが、毎年もっと全国のオーケストラをここで聴けるようになるとさらによいな。
任期最後の年度なので、ノット音楽監督のオープニングはこれが最後かと思うと、今回のプログラミングの意図なども考え、ちょっと感傷的になってしまうのでありました。
東響の本拠地のミューザ川崎。
サントリーホールの定期会員になっているので、ミューザは久しぶり。
プレトークでノット監督も世界有数の素晴らしいホールだと話してました。
どこで聴いても音がそれぞれによく、直接音と降り注いでくるような音とがどの席でもミックスされて聴こえて、とても気持ちがよいのです。
ワーグナーなどはことに相応しく、ワタクシには快感以外のなにものでもない感情が巻き起こります。
フェスタ・サマーミューザ川崎2025 オープニングコンサート
ワーグナー 「ローエングリン」第1幕への前奏曲
ベートーヴェン 交響曲第8番 ヘ長調 op.93
ワーグナー(マゼール編) 言葉のない『指環』
「ニーベルングの指環」
ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団
コンサートマスター:グレブ・ニキティン
(2025.7.26 @ミューザ川崎 コンサートホール)
ワーグナーでベートーヴェンを挟むプログラム。
プレトークでノットは、ローエングリンは出会いと別れの音楽と語った。
まさにいまのノット、オーケストラ、聴衆の思いです。
そんな風に思いつつ、この澄んだ音楽と、それにふさわしい清澄なる透明感あふれる演奏を聴いた。
高鳴るシンバルも慎ましく、どこか切なく感じた。
前奏曲のあと、わくわくするような伝令の登場シーンを続いて聴きたくなるのがワーグナー好きの心情。
ついでのベートーヴェン8番は、このコンビのベートーヴェン全集のトリを飾るものでライブレコーディングもされていた。
またインタビュー記事や、今回のトークでも語っていたように、この8番の驚くべき存在に着目していたとのことで、以前に日本のホテルで飛び起きてスコアを呼んで感嘆したとこと。
ウィットに富むけれど、正直極まりないベートーヴェンの作品だと。
そして間髪いれず、即始まる勢いあふれるサウンドはいつものノット。
基調は速めのテンポで一気呵成に聴かせてしまうノット節だけれども、細部は実に緻密に練られていてすっとばして聴かせてしまうという乱雑さは皆無。
ベーレンライター版なので過剰なところはなく、切り詰められぎっしりと音の意味合いが詰まっているようにも感じた。
プチ交響曲のような存在ではなく、舞踏的な、この時期のベートーヴェンらしい朗らかさと大胆さも示すような、そんな考え抜かれた演奏だと思った。
3楽章から終楽章へは、もしかしたらアタッカで入りたかったかもしれないノットさん。
おきまりの客席の咳で終楽章へ即なだれ込むのを諦めたのが見て取れた。
こればかりはしょうがないが、この終楽章が手に汗握る迫真の演奏で、ベト8でこんな興奮するのは初めてだ。
客席の反応も同じくで、いきなりブラボーの嵐だったもの。
2年前の2023年に、ヴァイグレと読響が同じ8番とフリーヘル編のオーケストラルアドベンチャー「リング」をサマーミューザでやっており、まったく同じ演目が期を待たずのるのは珍しいこと。
しかし、8番はおおらかで肩の力の抜けたヴァイグレの演奏だったのに対し、ノットの方はもっと刺激的でやたらとポジティブな演奏だった。
果たして、「リング」の方も同じく、オペラのベテランの安定感あるヴァイグレに対し、果敢に攻めまくったノット、さらにゴージャスなマゼール編との違いも大きく、どちらも最高の演奏であったと思うのだ。
また「ローエングリン」の次に書かれたのが「ラインの黄金」であり、「ジークフリート」の3幕以降は作曲に間が開き、作曲技法も高まっているこなどを聴くのも楽しみである。
これもまたノットの事前インタビューで読んだのですが、ノットがニュー・ヨークフィルにアルプス交響曲でデビューしたとき、時の音楽監督のマゼールが訪ねてきてリハーサルに立ち会いたい、さらにはマゼール指揮の演奏会でも、指揮中に振り返っておどけてみせた、次いでマゼールから評価を受けたことなども語ってました。
マゼールへの尊敬の思い、それから指揮することとはなんぞや、といったことなどを学んだなど謙虚に語るノット。
「東京交響楽団のプレイヤーたちが、私とともに年を重ねて変わっていくのをみてきました。こうした関係や経験、この出会い、融合、分かち合い、この喜び、このジャーニーが、願わくはみなさんの人生の一部になることを切に願っています」(ミューザブログより転載)
ノットのこの話を事前に読んでからいどんだこの演奏会、とくに「リング」は、そうした思いが詰まった、そして指揮者とオーケストラという組み合わせの実り豊かなの結実をここに観て聴いたのでした。
14時間かかる4部作を65分に凝縮した「リング組曲」。
オーケストラルアドベンチャーの方もだいたい65分の演奏時間ですが、そちらは主に抜き出しても聴かれるオーケストラ有名曲のシーンをつなぎ合わせ、歌唱の部分はそぎ落としオーケストラ作品としてとらえたもの。
マゼール版は、ワーグナーの書いた音符を忠実にそのままに、歌唱が乗る部分も活かし、楽劇の流れを65分に凝縮させたもの。
だから「言葉のない指環」となるわけでした。
この5、6月でスイスのバーゼル劇場(バーゼル交響楽団)で「リング」の通し上演を指揮してきたノット。
まさにその機運そのままに日本にやってきてくれた。
神奈川フィルでの名演から1か月。
「ラインの黄金」原初の響きの序奏からミューザで聴くワーグナーの喜びを感じる。
鳴り続ける低弦、そこに徐々に広がりゆくさざ波、透明感あるサウンドが、やはり重厚長大な一時代前のワーグナーとは一線を画したノットの新時代ワーグナーサウンドだと確信。
P席の真ん中と左右に置かれたニーベルハイムの金床は、先月の神奈川フィルの京急レールのきらびやかな音とは違い、渋いキンコンカンコンだったが、地下行きの片道だけの登場という贅沢ぶり。
ドンナーの雷の一撃から、いきなり「ワルキューレ」の1幕の嵐に突入で、華麗な神々の入城がないのが肩透かしでよろしい。
でも喉の渇きを癒すジークムントの美しいシーンは、チェロのソロがしっかりあり、ここでも艶のあるソロがすばらしく響きました。
一気にここで1幕の歓喜あふれるエンディングがやってきて興奮するが、ここでこらえきれず拍手がおきた、ワタクシも危ないところだった。
その後の2幕前奏曲の情熱的な演奏といったらなかったし、そこから2幕ラストにつながり、ワルキューレの騎行に間髪いれずなだれこみ興奮をさらに誘う。
ワーグナーチューバを交えた8本のホルンが壮観で、ノットの指揮もむちゃくちゃ気合が入っていて、時おり力む声も聴こえましたね。
そして、この日、最高に美しく、悲しくも神々しかったウォータンの告別シーン。
リングのなかでも、もっとも好きな場面、泣いてしまう場面、父と娘の愛情をノットも「リング」の中にある様々な愛の形のひとつとして語ってましたが、ともかく素晴らしかった。
「ジークフリート」は、ウォータンがローゲを呼び出すところから「炎」つながりでミーメが幻影に恐れてワナワナするところに巧みにつながり、実にスムーズに流れるので気が付かないうちにジークフリートに入っていた。
いちばん地味なジークフリートを面白く聴かせるのは、牧歌的なシーンをナチュラルに柔和に聴かせることで、案外血なまぐさいシーンも中和されるが、東響の管の名手たちの鮮やかさを堪能できた。
オモシロかったのが、瀕死のファフナーのシーンがあったところから、やがて「黄昏」の夜明けシーンに変わってゆくところ。
「神々の黄昏」、精緻なスコアだけに、オーケストラの精度もここでは聴きものだし、黄昏で活躍するホルンセクションンやブリュンヒルデの動機を何度も奏でる管と弦の橋渡しなど、完璧な演奏でありました。
ホルンが席を立ち、舞台袖でジークフリートの角笛を吹くが、その遠近法も鮮やかで、ラインの旅の快速ぶりもまた豪華なオーケストラサウンドとともに多いに聴きものだった。
やがてトロンボーンが席を立ったと思ったら金床のあったP席左右に登場し、ハーゲンが一族郎党に呼びかけるシーンとなった。
思い切りホールが鳴りまして、実に気持ちがいいんだ、これが。
あと爽やかな3幕の頭のラインの乙女たちのシーンが来て懐かしい思いに浸っていると、ジークフリートの告別の歌につながる。
いやもう、ここ大好きなんだから、もう涙腺が危ない。
新国の上演で、このシーンでジークフリートが記憶を覚醒し、絶え絶えに歌う場面では嗚咽を漏らしてしまった自分です。
葬送行進曲も当たり前のように超素晴らしい演奏で、スタイリッシュでありつつ鋼のような強靭さを感じさせるもの。
そして演奏はブリュンヒルデの自己犠牲になるが、もうこうなると感動の嵐、感動のスプラッシュでどうにもならなかった。
脳内でブリュンヒルデの歌を再生しつつ、眼前に繰り広げらるノットと東響の気持ちの入り込んだ演奏姿に息も切らさず見入り、ドキドキがとまらない。
救済の動機の扱いも見事だったが、でもそこだけに入れ込んでしまわず、ラインの川のたゆまぬ流れと強さも意識させるようなそんな演奏。
落涙はかろうじてしなかったものの、涙が滲んできた。
炎上するヴァルハラ、そこで呼吸があって一筋の光明のように救済の動機が入ってくる・・・・のを期待したが、思いと裏腹にサクっときて終結してしまった。。。。
これがノットの自分の旧来の思い込みから脱するような思いにさせてくれる一気呵成の鮮度の高い生きた音楽なんだ。
しばしの静寂があり、盛大なブラボーと拍手の嵐。
オーケストラをセクションごとに讃えるノット監督の信頼の眼差し。
「戦争レクイエム」に続いて、数日の間にこんなすごい演奏をやってのけたノット&東響。
次は「マタイ受難曲」、いまから泣きそうだ。

















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