東京交響楽団定期演奏会 マルッキ指揮
急に涼しくなった土曜日のサントリーホール。
もう半袖ではとうてい無理で、ジャケットを羽織って向かいました。
2週間前にここでマタイを聴いたときは、まだ暑いと言っていたのに季節は急速に秋に向かいました。
東京交響楽団 第735回 定期演奏会
ベートーヴェン 交響曲第6番 ヘ長調 op.68 「田園」
ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」
スザンナ・マルッキ指揮 東京交響楽団
コンサートマスター:景山 昌太朗
(2025.10.11 @サントリーホール)
まったく性格のことなる二つの作品によるプログラムだが、案外と多いこの2曲によるコンサート。
古い自分には、かつて晩年のマルケヴィッチが日本フィルに来たときにやったように記憶している。
マタイ受難曲から田園までは81年、田園からハルサイまでは105年、バッハからストラヴィンスキーまで200年の年月の隔たりのある音楽を、2週間のうちに同じオケ同じ席で聴く妙味。
ハルサイは100年前の音楽なんだな、とも今更ながらに思った。
演奏するオーケストラのみなさんは、まさにプロだなと感心しつつ、いまも変化しつつある西洋音楽の流れを思ったものでして、未来にいまのゲンダイの音楽はどう聴かれるのか・・・などとも思いましたね。
さて、フィンランドの指揮者マルッキは、長く務めたヘルシンキフィルの名誉指揮者となっており、いっときは次のニューヨークフィルの指揮者とも言われた実力派。
自国ものと、近現代音楽に強みを持つ彼女の指揮は、おもに海外のネット配信で多く聴いてきたが、ヘルシンキとのシベリウスもさることながら「グレの歌」での濃密な大作を明快に聴かせる手腕に感心をしていました。
シベリウスの1番あたりを聴きたい気もなくはなかったが、「田園」の出だしを聴いた途端に、北欧の風を感じたのです。
一瞬、音と響きが薄く感じられ清冽な風が吹いたようにも思ったが、それが徐々に瑞々しくなり、弦楽のしなやかな美しさにステキな管楽器が唱和する、えもいわれぬ幸福感を1楽章、2楽章で味わうこととなりました。
ベーレンライター版を重視し、セカセカしてしまう田園でなく、昔から聞き馴染んできた僕らの田園がここにあった。
リズム感抜群の3楽章、ティンパニのハリのいい強打がアクセントとなった4楽章、そして誰しもを安堵させ、幸せにしてしまう感動的な終楽章。
東響のみなさんも、ほんと気持ちよさそうに演奏してた。
45分をかけた真摯で丁寧な田園、こんな田園を聴きたかった。
最後の音が鳴り終わったあとのしばしの間もありがたかった。
気分よくロビーにでると、ここは北欧か、欧米か・・・
フィンランド大使館が後援についてることもあり、背の高いいかにも北欧の方風の人が多くいらっしゃいました。
ノット監督のもと、築き上げられてきた東響の鉄壁のアンサンブルと技量に感じ入ることのできた「春の祭典」
存外に冷静沈着に始まり、その流れで淡々と進行した春の兆しは、スピード感よりは的確で確実な音楽の歩みのなかにあった。
マルッキさんの拍子は完璧で、うしろからも素人の自分がみていてもとても判然とわかりやすく、ノット監督の指揮に慣れた東響とすれば、まさにやすやすと着いていきやすい指揮だったろう。
第1部は総じて安全運転のように感じつつも要所要所で切れ味の良さと、立ち上がりの良さ、音楽の変わり身をずばりと決めてゆく心地よさがあった。
マルッキさんの躍動する指揮にあわせて、腰のあたりのお洒落なスカーフが舞い踊るのも実にステキだった
第2部での神秘感あふれる序奏とヴィオラの重奏、アルトフルートの妙技など、こんなに真剣に聴いた自分もありましたが、これらのか所に美しさを見出すことができたのも精度の高い今宵の演奏あってのもの。
そして来ました、11連打!
ここから猛然とアクセル全開、ものすごいスピード感と音圧、オケも夢中、われわれ聴き手も夢中になってしまうマルッキハルサイ。
ホルン陣のベルアップを見るだけでも興奮のワタクシ。
基本、マルッキさんの指揮棒を見つつも、オケの皆さんをそれぞれにみまわし、忙しいよ自分。
スピード感と緊張感を保ったまま生贄の踊りに突入。
巨大なうねりが何度も襲い来る、息つく間もないドラマテックな展開に熱狂の渦を巧みに作り上げる指揮者の実力とオケの力量。
最後の一音の前の一瞬の間も実に見事。
最終音のあとのホールの余韻も含めて完璧だった。
カーテンコールでは、マルッキさんを盛大な拍手で呼び出し、にこやかにお応えでした。
実力派指揮者マルッキ、来シーズンは都響に客演して、得意中の得意曲「青髭公の城」をやります。
1週間後には、こんどはハマのブルックナー。
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コメント
ネットで鑑賞しました。HIP風の演奏ではなく、ホント懐かしい第6でした。ずぅっと前、初めて日本のオーケストラとして招聘した東響の慧眼、恐れ入ります。いい指揮者になったものです(女性男性は別にして)。
「祭典」も緩急をつけ(もっともそれはストラヴィンスキーのM.M.指示を守らないことになるけれど)、第2部は熱量MAXの演奏だったと感じました。
一部ブロガーは★1個と、ほとんど貶しのような評価を付けておりましたが、僕はこのような2曲の解釈もありだと思います。
投稿: IANIS | 2025年10月13日 (月) 15時18分
yokochanさま&皆さま
ご無沙汰しております。
東響と言えば、来季のラインナップが発表されましたね。ヴィオッティ新音楽監督の下での最初のシーズンということで期待していたのですが、声楽付き大曲の演奏会が(2回公演ではなく)1回のみの公演となっているなどスケールダウンしたとの印象否めず。これは、今季、ノット音楽監督最後のシーズンということで戦争レクイエム、マタイ、子どもと魔法など大盤振る舞いし過ぎて予算を使い果たし、来季は緊縮財政となったためではないか、というのが小生の読みであります(笑)。
そういう中、来季の目玉はシュミットの7つの封印の書だと思うのですが、なんと東響が演奏する1週間前にN響がA定期でまったく同じ曲を取り上げるのですね。これまで不思議にヴェルデイのレクイエムの演奏が続く年、なぜかメンデルスゾーンの讃歌が複数のオケで取り上げられる年などがあった記憶はありますが、このシュミットの大曲が1週間の間隔で東京で続けて異なるオケで演奏されるというのはかなりレアなケースではないでしょうか。
しかし、ちょっとぐらい調整しろよと思わないでもなく(笑)、双方のチケットを購入して聴き比べようとする超マニアもおられるでしょうが、一般の合唱好き1回券購入者はどちらにするか迷うところで、売れ行きへの影響も小さくないのではないかと。事前調整は独禁法違反なんですかね(笑)。
以上、いつもの雑談にて失礼いたしました。急に肌寒くなりましたね。体調など崩されませんように。
投稿: KEN | 2025年10月15日 (水) 06時04分
IANISさん、まいどです。
マルッキの演奏、たしかに時流に逆行しても聴こえましたが、その半鐘としてどこもかしこも同じようなスタイルになってしまったイマ、とても新鮮でした。
オーケストラをドライブする力にもたけてました。
概ね好意的な評のなかで、ご指摘のブロガーさん、一理あるとも思いつつも、たしかに厳しいね。
そのお方に限らず、連日連夜、コンサートやオペラに行かれる方がうらやましいと思いつつも、楽しくなさそうで・・・・
投稿: yokochan | 2025年10月17日 (金) 12時05分
KENさん、こんにちは。
東響の来季、わたしも特大級に期待してましたが、シンフォニー中心で声楽大作はひとつ、オペラもなしで、同じく予算かなぁと思ったりもしてました。
7つの封印は好きな作品でしたので、これが実演で聴けるのは望外の喜びではありますが、シュミットマニアのルイージもやるんですね。
もう少し間隔をあけて欲しいものですよ、まったく。
ノット監督は、来期は都響で、しかもやれなかったブルックナーの6番を。
退任後、桂冠称号が出る前の空白をうまくついた感じでしょうか。
東響、神奈フィル、ルスティオーニの都響の3オケのスケジュールを横並びに確認しながらのスケジューリングです。
幸いにして新国がイマイチなもので、新宿方面は行かなくてすみます。
投稿: yokochan | 2025年10月17日 (金) 12時36分