« ロッシーニ 「チェネレントラ」 アバド指揮 | トップページ | レスピーギ 「ラ・フィアンマ」(炎) »

2026年1月25日 (日)

東京都交響楽団定期演奏会 ルスティオーニ指揮 ②

Bunka

夜の東京文化会館。

昼間の人の多さが考えられないくらいに平日の上野公園口の駅前は静かです。

1961年の開館以来、何度かの改修工事は行われてきたが、今年の5月の連休以降に大規模修繕工事が予定され、3年間にわたり閉館となります。
もしかしたら、閉館まで文化会館のコンサートは行かないかもしれないので、数えきれないくらいにオペラとコンサートでお世話になった文化会館がとても名残惜しく感じたのでした。
もう若くないから、3年という期間は自分には長く感じられます。

この日は先週に続いてダニエーレ・ルスティオーニの指揮によるヴェルディとワーグナー。
どちらの作曲家のオペラも、ここ文化会館で忘れえぬ上演に接してます。
アバドのシモン、若杉のオテロ、小澤のファルスタッフ、ベルリン・ドイツ・オペラのリング、朝比奈、若杉のリング、サヴァリッシュのオランダ人、尾高のタンホイザー、飯守泰次郎のワルキューレ・・・・もうもう書ききれません。

若きイタリアのオペラの名手、ルスティオーニの作りだす鮮やかなオペラの瞬間を堪能しつつ、文化会館で観劇したオペラの数々を思い起こしてました。

Rustioni-tmso-4

    東京都交響楽団定期演奏会 第1034回

     ヴェルディ 歌劇「運命の力」序曲

         歌劇「マクベス」第3幕 バレエ音楽

          歌劇「オテロ」 第3幕 バレエ音楽

        歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲

  ワーグナー 歌劇「リエンツィ」序曲

        歌劇「タンホイザー」序曲

        歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲

        楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲

    ダニエーレ・ルスティオーニ指揮 東京都交響楽団

          コンサートマスター:矢部 達哉

             (2026.1.23 @東京文化会館)

ともに同じ年に生まれたヴェルディ(1813~1901)とワーグナー(1813~1883)を一夜で聴くという、ありそうでなかった私には極めてうれしかったプログラム。

南北で長いイタリアは、北と南で気質や文化が違うと思いますが、ミラノ生まれ、スカラ座児童合唱団で歌い、スカラ座音楽院で学びコレペティトゥールでオペラの神髄をたたきこみ、シエナの音楽大学を経た生粋のミラノっ子のルスティオーニは北イタリア出身となります。
イタリアから見たドイツは、アルプスの向こう側。
得意中の得意のヴェルディはともかくとして、ルスティオーニがどんなワーグナーを聴かせてくれるか、そこに注目していたし、さらには「マイスタージンガー」でコンサートのトリ、はたして大丈夫か?という懸念もありました。

聴いた結果からいうと、前半も後半もソノリティあふれる明るく明晰な演奏で、それぞれにオペラティックでありながらも単独で完結している独立した音楽という演奏でもあり、オペラの序曲であることと、完成されたコンサートピースであること、それを両立させた見事な演奏だった。
そう、序曲や前奏曲を聴くと、その先も聴きたくなり残尿感すら感じる自分なのですが、ここではそんなことはなく、それぞれに熱中し酔いしれたのであります。

①「運命の力」
壮麗なるこの序曲、スピード感あふれ、でもドラマテックに傾くことなく颯爽と演奏され白熱よりは、まるで今宵始まる物語の小手調べのようにも感じました。

②「マクベス」
パリ版に改訂の際、グランドオペラ風にグレートアップさせるために書かれたこのバレエは、私の手持ちのコヴェントガーデンでのルスティオーニ指揮による上演ではカットされてました。
10分ぐらいの切迫感とどこか哀愁感じる音楽を、ルスティオーニは抜群のリズム感と切れ味あふれる棒さばきでバリっと聴かせてくれました。

③「オテロ」
これもまたパリ版にあるお約束バレエ。
物語の背景ならではのエキゾチックなムード満載の音楽だけど、このあたりになるとヴェルディのオーケストレーションの筆致が高まっているのを感じる。
重奏的に絡むモティーフを巧みに浮きあがらせつつ、短いながら変遷する各バレエの特徴や雰囲気が鮮やかに描きわけられた。
こういうところも、先週のレスピーギやコルサコフで感じたルスティオーニの巧さだ。

④「シチリア島の夕べの祈り」
前半のハイライトはこれ、流したような運命の力と比べても気合の入り具合から違って、いつも録音で激しく聴かれるルスティオーニのうなり声がここではものすごくよく聴こえた。
ともかく歌心満載で、もう待ってましたよ、という気分でしたよワタクシは。
炸裂する打楽器に金管の咆哮も心地よく、チェロのまるでアリアのような歌、また歌、もうたまらなくステキだ。
そして盛り上がるクレッシェンドの高鳴り、高揚感もたまらんし、そのあとの弦の歌、ささえるピチカートもまた泣かせるじゃないか!
手持ちの音源にアルスター管との演奏のものがあり、聴きなおしたが、都響との方がはるかにいいと思った。
ヴェルディの音楽を完全に持ってるルスティオーニ、最高です。

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

①「リエンツィ」
いまのところルスティオーニの気質に一番あってると思われるリエンツィ。
舞台もローマでイタリアしてるから、輝かしいイタリアの陽光がワーグナーのなかでは一番ある曲だし、演奏もそのあたりを全開してくれた。
もちろんここでも歌心は充分でリエンツィのアリアの朗々たる旋律の歌いまわしも見事で、その盛り上げも実によろしい。
その後のテンポをあげての展開も慌てることなく堂々としていて、これもまた劇中で繰り返し主人公によって訴えられる「神よ守りたまえ」のモティーフが意味あいを込めてしっかり浮きあがる演奏というのも珍しいと思った。
このように効果に走ることなく、音楽の意味合い、物語りとの関連性も把握して、こうした序曲でもしっかり聴かせてくれるルスティオーニは本物のオペラ指揮者だと思います。

②「タンホイザー」
2曲目にタンホイザー。
作曲の年代順にたどる仕組みで、タンホイザーがラストでもコンサートとしてはいいはずだったが、こうしたこだわりが嬉しい。
グランドオペラの残滓が残る大がかりな序曲を、大抑な雰囲気でなく、ここでも明るく明快に聴かせてくれた。
都響のヴィオラセクションがとても巧く、くっきりとどんなときでもよく聴こえているのは、こうした内声部への指揮者のこだわりもあるかもしれない。
ヴェヌスブルクの場面での妖しさよりは透明感を感じるのも好ましかった。
この場から、オペラの本編に突入して欲しいと思うのはワーグナー好きのわたくしのサガとも言えましょうが、いつかルスティオーニの指揮で聖邪あふれる壮麗なるタンホイザーの全曲を聴いてみたいと思った。
手持ちアルスター管とのライブでは、バッカナール付きの24分の演奏で静かに終わるパターンです。
この人、ほんと本格派です。

③「ローエングリン」
清らかさよりは、明快さ、文化会館が明るい地中海サウンドを思わせる響きに満たされた前奏曲。
木質の響きのこのホールが人間の声、歌によく合うということが、この短い曲でよくわかった。
高鳴るシンバルへの持って行き方も陶酔感というよりは、冷静に音を積み上げて高揚していったクレッシェンドの果てでの成り行きであるかのような冷静さ。
神々しく仕上げるのでなく、音の積み上げを楽しませるような、そんなユニークな演奏でした。

④「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
開放感あふれるバリっとしたハ長の始まりを聴いた瞬間、はぁなるほど、これならプログラムの最後ってありね、と確信。
まさに確信あふれるハ長の堂々たる歩み、分厚く響くオーケストラはワーグナーがリング前半とトリスタンを経て獲得した錯綜するけれど、すべてが有機的に結びついている高度な音楽技法。
全部がしっかり聴こえるし、ここでも内声部へのこだわりも極めて効果的に作動し、都響の各セクションもすべての力量を解放したかのように全開したので、ホールが音で満たされ、ワタクシもワーグナーの音に包まれ快感このうえない境地へ。
愛の動機もサラリと流すように演奏される前奏曲演奏が多いなか、ここでは速めながらも実に心のこもった歌いぶり。
アバドの演奏もここは美しかったが、今宵のルスティオーニの演奏もこのうえなく優しく歌心満載でした。
その後のいろんな動機が混ざり合いつつ、徐々にクライマックスを築いてゆくさまは、右へ左へと忙しく指示し、歌を促すルスティオーニを見ながらも、感嘆すべき素晴らしさで、都響のすべての楽器が鳴り切っている。
この前奏曲ひとつで、こんなに興奮し胸が高鳴るのは初めて。
その先にある教会での合唱へのなだれ込みを期待せず、こんな鮮やかな終結部をもたらしたキレのいい演奏に驚きも感じた次第。
指揮者もオケも会心の表情でしたね。

Rustioni-tmso-02

定期だけど、アンコールにローエングリン3幕前奏曲かヴァルキューレあたりをやるかな?と最初は思っていたけれど、まったくいらない、そんな効果不要の完結したマイスタージンガー前奏曲だったし、今宵のすべての曲がオペラの一部であることも主張しつつ、それぞれがそれでコンサートピースとしても成り立っていた、そんな演奏でありました。

Rustioni-tmso-03

ルスティオーニ氏、次の都響はマーラー「復活」とドヴォルザーク7番です。
いつしか若杉時代のように、コンサート形式のオペラ上演もやって欲しい。

マリオッティ(46 ペーザロ)、ルスティオーニ(42、ミラノ)、バッティストーニ(38、ヴェローナ)
3人のオペラ指揮者が日本で聴ける幸せ。

Rustioni-tmso-05

ここ数年、ルスティオーニがリヨンオペラで指揮した作品を中心に、バイエルン、メットなども含めネットでの放送音源を多く聴いてきました。
フィガロ、トロイアの人々、ルチア、エルナーニ、マクベス、アイーダ、ファルスタッフ、金鶏、カヴァ・パリ、ボエーム、蝶々さん、西部の娘、アンドレア・シェニエ、アドリアーナ・ルクヴルールなど14作もアーカイブできてます。
こうしてみるとロッシーニやベルカント系、ワーグナー、シュトラウスなどはまだこれから、という感じです。
アルスター管やピッツバーグなどとのオーケストラ作品もバラエティ豊かで、そのレパートリーはとても広いです。
ともあれ、今後ともに楽しみな指揮者です。

|

« ロッシーニ 「チェネレントラ」 アバド指揮 | トップページ | レスピーギ 「ラ・フィアンマ」(炎) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ロッシーニ 「チェネレントラ」 アバド指揮 | トップページ | レスピーギ 「ラ・フィアンマ」(炎) »