ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 作品31 ギレリス

お盆前まではやたらと暑かったからコスモスやラベンダーはいいまひとつ。
その後は今度はずっと雨で日照不足や過剰な湿り気で、農作物も花々もさんざんな初秋。
でも涼しくはなって、ピアノ曲や室内楽作品などに耳を澄ますのによい季節。
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第16番 ト長調 op.31-1
ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調 op.31-2 「テンペスト」
ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調 op.31-3
エミール・ギレリス
(1972.1 トゥルク、1981.10 イエスキリスト協会)
このジャケットのレコードは買うことはなかったけれど、1枚1枚発売されるギレリスのベートーヴェンは常に気になる存在でした。
残念ながら全集を完成することが出来なかったエミール・ギレリスのベートーヴェンを聴く。
残さなかった番号は、1,9,22,24,32番の5曲で、最後の32番がないのが残念だが、DGのまとめてくれた選集は、ブレンデルやコヴァセヴィチ、ポリーニとともに、ベートーヴェンのソナタの私の大切な音盤となってます。
レコード時代は、バックハウス・オンリーだったが、いまでは少しいにしえに過ぎるように感じるようになった・・・
3曲からなる作品31のピアノソナタ集。
1801~04年にかけての作曲で、17番が先に書かれたようだが、曲の性格はそれぞれに異なるものの、中期以降の様式をすでに先取りしていて、とても充実した作品集となっている。
ハリゲンシュタットの遺書の年と重なる時期であるが、ベートーヴェンはすでに難聴に悩み、絶望とともに生への願望、芸術への献身の日々のなかにあった。
そんなことも思いつつ、これらの作品集を聴くと、音楽に尽くし、その創作とともに生きるというベートーヴェンの強さと優しさを感じたりもしましたね。
古典的な佇まいを持つ16番作品31-1は、調性からしても明るく、かつ優雅さも持つ。
トリルの印象的な2楽章、ロンドとタイトルされた終楽章はそのロンド主題がもっぱら活躍するユニークな楽章。
案外ととらえどころなく、難しい作品かもしれず、聴いた後にどんな曲だっけ?と思ったりする不思議さもあったりした。
かつては弟子とされたシントラーに作者自ら「(シェイクスピアの)テンペストを読め」と語ったという逸話から「テンペスト」と名付けられたとされた17番作品31-2。
しかし現在では、この逸話はシントラーの創作であるとされる。
昭和世代のワタクシからすると、ずっとテンペスト・嵐とレコード解説などで読んでイメージしてきたものだからちょっと寂しいものがあります。
それにしても短調で自由かつ奔放な1楽章は厳しくも不安や沈滞ムードにもあふれ、ベートーヴェンの苦しみともとれる。
また独白めいてもいて、幻想的でもあるところが魅力的。
まいど感じるベートーヴェンの緩徐楽章の美さが、17番の2楽章にもありますが、どこかためらいがちで、後ろ髪ひかれる雰囲気も魅力的。
常動曲のようなリスム音型にずっと支配され、単調さが情熱を生むような終楽章。
とても印象的な第1主題はなぜか中学時代より忘れられない旋律で、どこかの家から聴こえたピアノの練習の音の記憶とむずびつく。
刹那的な雰囲気やすう~っと終わってしまうところなんかも妙に中学生の頃の甘酸っぱさを思い起こさせる・・・
3曲のなかで唯一、4楽章形式を持つ18番作品31-3。
この作品は案外と好きで、これもまた昔ばなしですが、ルービンシュタインの最後の録音としてレコードが出た時は大学生になったばかりで、モノクロのジャケットが気になって、18番の作品そのものも気になってしょうがなかった。
結局は、誰の演奏か忘れてしまったがエアチェックして飽くことなく聴いて、この曲が好きになっていった。
2つの舞踏的な楽章を持つユニークな曲で、わたしはこの作品に明るさと生命力をも感じたものです。
2楽章は、ソナタ形式によるスケルツォ楽章で、のちのちの交響曲におけるスケルツォの先駆けみたいに感じる強さと洒脱さもあり面白い。
もうひとつの舞踏的な楽章の3楽章は、メヌエット。
抒情的でもありつつ、付点音符がいいアクセントとなりぞの弾みが心地よい。
一転してプレストになる終楽章も舞踏的で、こちらはタランテラ舞曲風で力強くもあり、明朗快活なベートーヴェンに安堵したりもする。
転調で短調がやってきてちょっと不安になるが、それを吹き飛ばすようにバシッと曲を締める。
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1985年に68歳の若さで亡くなってしまったギレリス。
鋼のピアニストと呼ばれたギレリスも、西側での活動を盛んにおこなうようになり、レコーディングも増えて剛腕ばかりでない精緻で知的なピアニストであることがわかった。
セルとのベートーヴェンとヨッフムとのブラームスの評価が決定的だったろう。
70年代前半から始まったDGへのベートーヴェンのソナタ録音。
この作品集にあっては、まいどながら完璧であるとともに、ベートーヴェンの音楽の若さや澄んだ抒情、また表情の機微なども見事に捉えた柔軟な演奏。
楽想の変わりゆくさまを弾き分けることが実に自然でありつつ、その個々においても説得力がとてもある。
音楽そのものが語っているようにも思える自然さもあり、精緻でありつつも、情感もあふれていて、とても素晴らしいベートーヴェン演奏だと痛感。
中期、後期となるとギレリスの演奏は、さらに厳しさを加えたり、透明感も感じさせたりと、ベートーヴェン作品を順次聴いてゆく楽しみを与えてくれます。
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