ベルリオーズ レクイエム プレヴィン指揮
9月の彼岸にはピークを迎える彼岸花。
毎年、同じ場所に、同じ時期にちゃんと朱にそまって開花する。
立冬を過ぎたいま、いまさらの写真ですが赤が怖いほどに美しいので。
ベルリオーズ レクイエム op.5
アンドレ・プレヴィン指揮 ロンドン・フィルハーモニック
ロンドン・フィルハーモニック合唱団
T:ロバート・ティア
(1980.4 @ウォルサムストウ)
ベルリオーズ(1803~1869)の34歳、1837年の作品。
フランス革命後40年を経て、復古を繰り返した帝政・王制のなかで最後の王制を敷いた王様、ルイ=フィリップ1世。
その治世1830~48年の間、暗殺未遂事件が起きてしまい犠牲者が出てしまった。
その犠牲者追悼のためフランス政府は慰霊祭を計画し、その音楽を若きベルリオーズに委嘱した。
このレクイエムはそのときに作曲されたもの。
しかしながら、この追悼式は政治色が強く、王制が復興してしまったことへの市民感情を紛らわす意図もあった。
結局、慰霊祭の規模が縮小されたり、若い作曲家がなんぞや的なこともあり、演奏は流れてしまう。
しかし、同年アフリカ戦線アルジェリアでダンレモンという将軍が戦士し、その追悼でという名目をとりつけ初演にこぎつけることができた。
そんな経緯を経て生まれたレクイエム。
シンバル10、ティンパニ10人、大太鼓4、バンダ4組・・・・、という途方もなくバカらしい巨大な編成がオリジナルのこのレクイエム。
①レクイエム・キリエ → ② 1 怒りの日 → 2 ミゼレーレ
→ 3 レクス・トリメンダ → 4 怒りの日 → 5 ラクリモーサ
③奉献唱 1ドミネ・イエズス 2 ホステイアス
④サンクトゥス ⑤アニュス・デイ
ベルリオーズのことだから、そしてその巨大な編成から、さぞかしすさまじい大音響なんだろう、とやたらと期待しつつFM放送を録音したのが小澤&ベルリン・フィルのライブで、いまをさること高校生の頃。
小澤さんは、70年代、ダイナミックな指揮ぶりでもって、こうした巨大な編成や長丁場の作品を暗譜でもってわかりやすく指揮することで、欧米諸国でも引っ張りだこだった。
いま思えば、そんな巧みなスキルを持ったスマートな指揮者ってあまりなくて、とくにアメリカでバーンスタインに次ぐ存在として重宝されたのも理解できること。
巨大で大音響のとんでもない作品だと思い込んでいた。
(過去記事の引用)ティンパニとラッパが鳴り渡るトゥーバ・ミルムのド迫力はすさまじいもので、カセットテープでは音がびり付いてしまい、どうしようもなかった。
そんな大音響の場面は、全曲の中のごく一部だともわかった。
このレクイエムは、抒情と優しさに満ちた美しい音楽なのだと、何度もそのカセットテープを聴いて思うようになった。
CD時代になって、スピーカーの破綻を気にせずに、ボリュームを上げ下げしながら気にして聴くことがなくなった。
その組み合わせとレーベルの珍しさからずっと聴きたかった「ミュンシュ&バイエルン放送、シュライヤー」のDG盤をまず購入。
剛毅さと歌心を併せ持ったこの名盤は、いまもってこの曲の最高の演奏だ!
その後、バーンスタインの巨大な演奏も聴いた。
コンサートでは、ゲルギエフが日本のオケを振った演奏も聴き、大音響よりは抒情に傾いたスタイリッシュな演奏に驚いた。
CD時代初期に、ロンドン響を巣立ったプレヴィンが驚きのロンドン・フィルとの録音を行った。
ロンドン・フィルが各レーベルで引っ張りだこだったハイティンク時代末期。
ロイヤルフィルに行く前のプレヴィンとの一期一会的な録音がこのベルリオーズだった。
教会での演奏を想定してかかれたレクイエムであることを、しっかりと感じさせる響きの豊かさ。
でも決してムーディじゃありません。
祈りの音楽としてある、このベルリオーズのレクイエムの立ち位置を意識させる真摯な演奏。
ベルリオーズの本質、巨大サウンドではなく、それは全体の一部で、本来は歌に溢れた抒情味。
そんなベルリオーズの姿を見せてくれるプレヴィンは、この巨大な曲でも優しい微笑みを感じさせてくれる。
ロンドン・フィルの金管のマイルドな響きが、刺激的でなく優しく聴こえ、ロンドンのオケ付合唱団でも当時ぴか一の存在だったフィルハーモニー合唱団も暖かくふくよかな歌声だ。
ティアーのテノールはやや知的に過ぎるかな。
でもこの声を聴いて、あのティアーの顔を思い出してしまうくらいに、ロバート・ティアはイギリスのテノールの顔だった。
ラストのアニュス・デイにおける平和、平安に満ちる安らぎと終末感は数あるレクイエムのなかでもベルリオーズは随一かもしれない。
カンプラに遡り、フォーレ、デュリュフレにいたるフランス系のレクイエムの流れのなかに、しっかりベルリオーズもあることをいまさら認識しました。
ベルリオーズのレクイエム、ほんとに美しく抒情的な音楽だと思った。
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