レスピーギ 「ラ・フィアンマ」(炎)
ある日の壮絶な夕焼け空の太陽。
妖しくも、なにか起こるんじゃないかと心配してしまったのですが、なにごともなくその夜も次の朝も平準でした。
2026年はレスピーギ(1879~1936)の没後90年。
そんなにエポックな節目でもありませんが、演奏会ではそこそこに取り上げられます。
もちろんローマ三部作ばかりが有名で、だれしもが好きな作品でありますし、私も例外ではありません。
しかし、レスピーギはイタリアの作曲家であり、オペラ作曲家でもありました。
そこに着目して、以前より何度も記載してますが、プッチーニだけじゃないヴェルディ以降のイタリアのオペラ作曲家たちを務めて聴くようにしてました。
そんななかで、レスピーギの存在はかなり後期にあり、同時代のイタリアオペラ作曲家としては、マリピエロやピッツェッティらがいて、さらに後輩としてはメノッッティあたりとなります。
56歳という短い生涯にあって、オペラ的な作品は9作残したレスピーギ。
なかなか音源を集めずらいのですが、最近は映像で登場するようにもなり、徐々にコレクションできてます。
今回は完成された最後のオペラ、「ラ・フィアンマ」を取り上げました。
レスピーギ 歌劇「ラ・フィアンマ」 ≪炎≫
シルヴァーナ:ネリー・ミリチオウ
ドネッロ:ガブリエル・シャーデ
エウドシア:マリアーナ・ペンチェーヴァ
バジーリオ:デイヴィッド・ピットマン=ジェニングス
アグネーゼ:チンツィア・デ・モーラ
モニカ:オルガ・ロマンコ
ヴェスコーヴォ:パータ・ブルチュラーゼ ほか
ジャンルイジ・ジェルメッティ指揮 ローマ歌劇場管弦楽団
ローマ歌劇場合唱団
(1997.12 @ローマ歌劇場)
イタリア人として祖国の風土、歴史、街々を愛したレスピーギ。
ローマ三部作でローマを謳歌した名作を残したが、レスピーギの後半生の心のなかにあった都市はラヴェンナでしょう。
ローマとは半島の反対側、アドリア海に近いエリアでボローニャの東側に立地するのがラヴェンナ。
「ラ・フィアンマ」の舞台はそのラヴェンナです。
1934年、レスピーギの心臓麻痺による56歳の早過ぎる死の2年前にローマで初演。
妻エルザとこのオペラの台本作者グワスタッラと3人でラヴェンナに長期滞在し、この歴史ある街に魅せられたレスピーギ。
オペラの時代設定は7世紀で、その頃はビザンチン帝国=東ローマ帝国と西ローマが対決していた頃。
ラヴェンナはコンスタンティノープルを首都とする東ローマ帝国の総督府があった都市で、帝国は完全支配下になっていなかったイタリア半島をなんとか統治するためにラヴェンナにその機関を置いた。
そんなラヴェンナだから、ビザンチン様式の史跡やモザイク画など、初期キリスト教の東方の文化をにじませた中世前期の色合い残るステキな街とのことで、世界遺産の都市ともなっている。
この機にいろいろ調べてみたけど、メジャーなイタリアの都市を外して、ラヴェンナとか近くのフェラーラを観光するのは実に魅力的だと思った。
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「ラ・フィアンマ」の物語の内容は、ラヴェンナを舞台に、総統一家の悲劇と外部が攻め入る民族との抗争、さらにいちばん大きな軸は、魔女狩りをドラマの核心として描いている。
7世紀の頃は、もしかしたら12~13世紀の中世時代の本格的な魔女狩り・魔女裁判・異端審問などとは違ったかもしれず、多分に台本のフィクション性が高いものとも思われる。
その原作は、ノルウェーの作家ハンス・ヴィアーズ=イエンセンが1908年に書いた「アンヌ・ベダースドッター」という小説で、英訳されてからは「魔女」というタイトルになったもの。
1590年にベルゲンで起きた史実をもとにしたもので、継母が義息子と関係を持ち、そこに魔法がからんでいたとして魔女と告発されて火刑にあってしまう女性を描いている。
レスピーギのオペラは、それがこの物語の中心となっている。
登場人物を整理・紹介しときます
シルヴァーナ:総督バジーリオの年若い妻
ドネッロ:総督バジーリオの前妻との息子、シルヴァーナと幼馴染
エウドシア:総督バジーリオの母にして、シルヴァーナの義母
バジーリオ:ラヴェンナ総督府の長
アグネーゼ:魔女とされ火刑。シルヴァーナの母の知り合い
モニカ:バジリオ家の若い使用人
ほかに、悪魔祓い、司教、息子が急逝した母親
東と西の両ローマ帝国の対立軸のなか、バジーリオは皇帝の命により、首都コンスタンティノープルを離れ、ラヴェンナに長期赴任している。
妻は亡くなり、息子のドネッロはコンスタンティノープルで政治や戦略を勉強中。
バジーリオは粗末な家庭出身の若いシルヴァーナと結婚することになり、母エウドシアは最初から反対していた。
第1幕
義母エウドシアは、義理の娘が家政婦に対し必要だとする厳しさが足りないと叱責する。
彼女は亡くなった息子の前妻を、高貴な貴族出身といこともあり規律の模範として考えている。
シルヴァーナは義母のそんな態度に息苦しさを感じ、家の使用人の一人、モニカに打ち明ける。
その時、群衆から怒りの叫び声が聞こえてくる。
アグネーゼ・ディ・チェルヴィアを火刑に処せ、彼女は魔女だと主張する者たちだ。
使用人の娘たちが飛び出して行くと、追いかけていた老婆が突然シルヴァーナの前に現れ、群衆から自分を救い、かくまってくれるよう懇願する。
シルヴァーナは最初は拒否するが、アグネーゼがシルヴァーナの母親もかつて魔女の容疑をかけられていたことをほのめかした途端、その願いに屈し、彼女を匿うことにする。
バジリオの息子、ドネッロがラヴェンナに帰ってきた。
同い年のふたり、シルヴァーナはバジリオに、まだ子供だった頃に会ったことがあると告げる。
その時も二人は互いに惹かれ合っていて、今回の再会もまさにその通りの展開となる。
エウドシアがやってきて再開した二人の会話に割り込んで、孫のドネッロを歓迎する。
その時、教会の悪魔祓いに率いられた群衆が、アグネーゼを追って家に押し寄せてきて、彼女が幼い少年チェザーリオに魔法をかけ、死においやったと母親は叫ぶ。
ついに群衆は老女を見つけ出し、火刑場へと引きずり出す。
アグネーゼは厳格なエウドシア、息子のバジリオ、孫のドネッロ、そしてシルヴァーナにも併せて呪いをかけ、いつかお前も火刑に処されると予言し、火刑に処せられる・・・・
第2幕
ドネッロは使用人のモニカと情事を始めていた。
シルヴァーナはこれを知ると、モニカに厳しくあたり、嫉妬に狂ったようになり非難し、ついに友人のようだったモニカを修道院に追放する。
一方、バジリオは息子にローマ教皇に対する戦いに加わるよう命じ、コンスタンティノープル行きを考えさせる。
アグネーゼが炎に倒れる少し前に、シルヴァーナの母親と総督との関係について奇妙なほのめかしをしていたのをシルヴァーナは気にしていた。
バジリオはついにシルヴァーナに、彼女の母親が魔法を使って彼を家に誘い込み、当時まだ成人にもなっていなかった自身の娘と結婚させたことを告白する。
数年後、シルヴァーナの母親が魔女の罪で告発されたとき、バジリオは彼女を擁護し、火刑から救った。
しかし、彼は当時彼女が自分に呪いをかけたと確信しており、自分の信仰によれば罪人を火葬場からは救えたが、地獄の煉獄からは救えなかったという思いにいまでも苛まれていると告げる。
混乱したシルヴァーナは、なぜ母の死に悲しみを感じなかったのかを理解し始める。
同時に、彼女は母の魔力を受け継いでいると信じはじめ、夢の中で願うことが実現するのは、その力によるものだと確信する。
彼女は義理の息子ドネッロをいまここに出現させようとすると、突然彼が目の前に現れる。
二人は抱き合い、一夜を共に過ごす。
第3幕
シルヴァーナとドネッロは情事を続け、互いに離れることができないくなっていた。
エウドシアはとっくにその事実を知っていたが、息子バジリオのことを思い秘密にしていた。
しかし、彼女は政治的影響力を行使し、いまこそドネッロをコンスタンティノープルへ帰還させるよう仕向けた。
孫にこのことを伝えようとした日、彼女は孫の部屋でシルヴァーナを見つけてしまう。
明かになった二人の不倫関係はもはや隠し通すことができなくなる。
義母の陰謀によってドネッロと引き離されることを知ったシルヴァーナは、怒りと絶望に打ちひしがれ、バジリオに不倫の事実を白状する。
そしてバジリオと過ごした幸せな瞬間はまったくなく、彼の誘いに屈するたびに彼を軽蔑していたと告げ、バジリオを罵倒する。
老いたバジリオは精神的に混乱し崩壊し、心臓麻痺を起こしてしまいそこで息を引き取る。
エウドシアは息子の死をシルヴァーナのせいにし、彼女を殺人鬼、さらには魔女と罵倒する。
暴徒と化したの群衆の裁きに引き渡されたアグネーゼのときとは異なり、シルヴァーナは司教のもと正式な裁判を受けることとなる。
彼女は姦通に関しては告白するが、魔女の嫌疑は一切を否定する。
彼女の自己の弁護は愛の炎に屈したことが唯一の罪、ドネッロと彼女は愛で結ばれており、この愛に生きると主張。
ドネッロも同じ思いとなり、感動してシルヴァーナを弁護すると、司教と聴衆は心動かされ、シルヴァーナを無罪放免にしようとする。
しかしそのとき、義母エウドシアが口を開き、魔女として有罪判決を受けたアグネーゼとの関係、そしてシルヴァーナの魔女のような母親にまつわる噂を、激しく言いつのり、その過去を全員に思い出させる。
そして最後に、彼女は「魔女!魔女の娘!」という言葉で告発を終える。
ドネッロもこといたっては、シルヴァーナを疑い始め嘘だと言ってくれと責め、シルヴァーナはもはや彼を信頼できないことを悟る。
愛への夢は砕け散ってしまい、自暴自棄の心境となったシルヴァーナ。
司教が十字架を彼女に差し出し、魔女を糾弾する最後の機会を与えた時、彼女はその誓いの言葉を発することができない。
彼女の沈黙は告白とみなされた。
人びとは、神は正しく下された!魔女!と叫ぶ。
シルヴァーナは火葬場へと運ばれる・・・・
幕
救いのない絶望的なドラマ。
2度も魔女狩りの火刑があり、不倫あり、突然死あり、義母のいびりあり、嫉妬あり、愛のシーン・・・・
人間の心のなかにある迷信や超常現象的なものに対する恐れと不安のおののき、そして期待と不安への憧れ。
そんな心情もあって、このオペラの初演とその後の各地で世界戦争前夜当時の上演ブームにつながったんだと思います。
それは人々の集団ヒステリーでもあり、キリスト教と邪教との聖邪の対立、厳しい家父長制、女性の心の自立、フェニミズムなどなど、いまでも通じる普遍的な事象をあらわしてもいて、このオペラに社会性をまとわらせた演出が可能であることも証してます。
忘れ去られたこのオペラ、ローマでのライブをメインに聴きましたが、2024年のベルリン・ドイツ・オペラ上演も視聴できました。
研ぎ澄まされたクリストフ・ロイのシンプルな演出の説得力と歌手たちの迫真の演技があまりにも素晴らしく、度肝を抜かれました。
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レスピーギの音楽の素晴らしさ。
冒頭から宿命的なサウンドで、このオペラの逃げようのない苛烈さをすぐさまに感じさせる。
そしてすぐさま、エキゾシズム漂う東方ムードに覆われる使用人たちの女声の歌声。
歌手たちには、アリアなどひとつもなく、独白的な場面でつながれているが、義母エウドシアのまるでワーグナー作品のオルトルートの存在を思わせるような邪悪な雰囲気の音楽や、ドネッロのやたらと甘い役回り、表向き強権ムードのバジリーオ爺さんが、若い妻にはメロメロだったりするシーンなど、ともかくよく書けてる。
そしてヒロインのシルヴァーナの音楽は、とても同情的な側面で書かれている一方で、暗い情念をにじませるような二面性もあり、この役柄を歌いこむ大変さも感じるのであります。
交響詩でも存分に発揮されているオーケストレーションの見事さは、オペラでも各シーンの鮮やかなまでの描き分け、事象を彷彿とさせるリアル感など、ここでも満載です。
あとなによりも、美しいのは愛を語るシーンでのとろけるような甘美かつ抒情的な音楽。
1幕の若いふたりが、子ども時代を語るシーンでは森や鳥のさえずりなども模写され美しいく清々しい一方、結ばれてしまったあとの3幕での二重唱は濃厚なトリスタン的後期ロマン派の音楽となっている。
そして、1幕の最後、終幕でのエンディングの強烈さもすさまじいです。
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97年のローマでのライブは舞台の熱気をそのまま感じる優れもの。
ロッシーニ指揮者でもあり近現代ものが強かったジェルメッティは2021年に75歳で亡くなってます。
存命ならばイタリアを代表する巨匠であったでしょう。
ここでのレスピーギは、切れ味よろしくローマのオーケストラとは思えないくらいに鋭い音がでてるし、また歌心もたっぷり。
歌手では実績あるミリチオウが圧倒的な歌声で、清楚さから妖気と諦念もうまく表現していた。
ほかはデコボコあり。
シルヴァーナ:オレシア・ゴロヴネヴァ
ドネッロ:ゲオルギー・ヴァシリエフ
エウドシア:マルティナ・セラフィン
バジーリオ:イヴァン・インヴェラルディ
アグネーゼ:ドリス・ゾッフェル
モニカ:スア・ジョー ほか
カルロ・リッツィ指揮 ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
演出:クリストフ・ロイ
(2024.9.29 @ベルリン・ドイツ・オペラ)
私のヒットゾーンの作品を次々と上演してくれてるベルリン・ドイツ・オペラでのライブ。
ドイツ放送から録音し、さらにその舞台もネット視聴することができました。
この視聴で、ラ・フィアンマの作品理解をかなり深めることができた。
無駄なものをいつもそぎ落とすミニマル演出家ロイ。
室内仕立てのサスペンスを見るかのような求心力と音楽への集中を妨げないシンプルな演出は、ここでも見応え充分。
女声3人とモニカを加えた4人がすばらしい。
役柄に没頭し迫真すぎる演技と柔らかさと強烈さも併せ持ったロシアのゴロヴネヴァはビジュアルもよい。
大ベテランのゾッフェルが鬼気迫る魔女役に、ドラマテックソプラノのセラフィンが、ここではメゾの領域で本ドラマでの悪役に挑戦し、複雑な心境を歌い演じる。
ローマ盤より録音が最新のせいか、バリっとした鮮やかさがあるオーケストラがうまい。
いつかDVD化を望みたい。
音源としては、85年頃のガルデッリ盤があり、当時フンガトロンレーベルにレスピーギのシリーズを録音中だった。
聴きたいのですが、そちらは入手難。
ヴェルディ(1813~1901)以降のイタリアオペラ作曲家
・ボイート (1842~1918)
・ポンキエッリ (1843~1886)
・カタラーニ (1854~1893)
・レオンカヴァルロ (1857~1919)
・プッチーニ (1858~1924)
・フランケッティ (1860~1942)
・マスカーニ (1863~1945)
・チレーア (1866~1950)
・ジョルダーノ (1867~1948)
・モンテメッツィ (1875~1952)
・アルファーノ (1875~1954)
・ヴォルフ=フェラーリ(1876~1948)
・レスピーギ (1879~1936)
・ピツェッティ (1880~1968)
・マリピエロ (1882~1973)
・メノッッティ (1911~2007)
まるでゴジラのような雲。
ドラマテックにすぎる空でした。






































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