今年亡くなった音楽家を偲んで 2026
今年は短い秋だったけれど、木々の色づきはとても奇麗だった。
多くの音楽家が物故し、その訃報のたびに悲しみを覚え、同時に自分も歳を確実に重ねていることを実感もしている。
今年亡くなった主だった音楽家の皆さんを振り返り、ここに彼ら・彼女たちを偲んでみたい。
【指揮者】
「秋山 和慶」(1941~2025.1.26 84歳)
療養のための引退の発表からのほどなくの逝去に、日本の多くの愛好家が驚き、悲しみました。
海外でのポストも複数経験したあと、日本の各地のオーケストラをあまねく指揮した、日本のオーケストラのために尽力した指揮者が秋山さん。
秋山和慶さんを偲んで 過去記事
「ヴラディーミル・ヴァーレク」(1935~2025.2.16 89歳)
渋いところですが、チェコの名匠。プラハ響とプラハ放送響と長く率いて、日本のオケにも客演していた。
「エンリケ・バティス」(1942~2025.3.30 82歳)
メキシコの指揮者で爆炎系とされながらも、実際にいくつか聴いてみたけどそうでもない。
かつてアルゼンチンのカルロス・パイタも爆演指揮者と呼ばれたが、そうでもなかった。
中南米というだけで、少し気の毒なレッテルだろう。
しかし82歳はまだ若い。
「ジョン・ネルソン」(1941~2025.3.31 83歳)
アメリカの指揮者で、オペラ指揮者でもあった。
ベルリオーズのスペシャリストであり、バッハやヘンデルも得意にしたユニークな立ち位置の存在だった。
「トロイ人」や「ファウストの劫罰」などは素晴らしいと思った。
「ロジャー・ノリントン」(1934~2025.7.18 91歳)
ノリントンの訃報に驚いたが、91歳という年齢と数年まえの引退コンサートをネットで聴いていたので、来るものが来た、と言う印象だった。
古楽系からの人と思われがちだが、ボールトに学んだことからわかるように、生粋のイギリス人指揮者として古楽の領域までをオールジャンルで手掛けるマルチな指揮者だった。
手兵のロンドン・クラシカル・プレイヤーズとロマン派までを網羅するレコーディングをなした後、通常のオーケストラも指揮するようになり、シュトゥットガルト放送響の指揮者になってから古楽奏法スタイルを導入して、ここからノリントンの名前がさらに世界的になっていったと思う。
わたしはアーノンクールより、ノリントンの方が教条的でなく柔和な音楽造りだったので好んで聴きました。
シュトゥットガルトと来日したときには、エルガーの1番を2001年に、マーラー1番を2005年に聴いているほか、N響への客演でもRVWを聴いたりしている。
ウィットにとんだ指揮ぶりはユーモラスでもあったが。でも学究肌でもあり、確かな考察のもと考え抜かれた音楽造りをする指揮者だった。
「クリストフ・フォン・ドホナーニ」(1929~2025.9.6 95歳)
ブロムシュテットと並ぶ長老指揮者だったが、ついに。。。という思いでした。
ハンガリー系ドイツ人として、オペラとコンサートの名指揮者として、欧米にて有力ポストを歴任。
作曲家エルンスト・フォン・ドホナーニも近時よく演奏されるようになったが、孫氏は祖父作品に対しどうだったろうか?
ライナー、セル、オーマンディ、ショルティらのようにアメリカのメジャーオケのポストを長く務め、そのオーケストラの黄金期をつくるあげた点でも同じくでした。
クリーヴランド管とは20年のコンビだったが、デッカに残されたその録音の数々はいずれも明晰で、録音のよさもあるが音楽のすべてがよく見えるような演奏ばかりだった。
それがややデジタルにすぎると思われるときがあったが、でも余計なことはせず、過剰な解釈もない音楽の本質に迫る真摯な演奏は、その曲のスタンダートとして今でもコレクションに値するものばかりです。
同コンビは何度か来演しているが、一度も行けなかったことが悔やまれます。
ヨーロッパではウィーンでの活動も長く、そしてハンブルクでは州立歌劇場と北ドイツ放送響との長い活動も注目に値します。
イギリスではフィルハーモニア管、フランスではパリ管など、それぞれにポストを持っていたこともあり、オーケストラビルダーとしての才能もいかに高く評価されていたかがわかります。
ウィーンフィルとは77年にベームとともにやってきて、当時夫妻であったアニア・シリアと共演したりもしました。
黒縁メガネの真面目そうな指揮者というイメージでしたが、84年にハンブルクオペラを率いてやってきたときは、メガネではなかった。
3つの演目があったが、そのいずれも観劇することができて、なかでも「影のない女」は日本初演で、その舞台は豪華な歌手陣もあり生涯忘れえぬものとなりました。
ドホナーニの統率力の見事さ、ピットでの詳細なまでのキュー出しなど、いまでもよく覚えている上演です。
ドホナーニの追悼記事は、またいつか書いてみたいと思います。
「ベルンハルト・クレー」(1936~2025.10.10 89歳)
エデット・マティスの夫で指揮者、ピアニストとして夫妻での録音も多かったクレーもマティスに続いて今年亡くなってしまった。
私のような昭和のリスナーからすると、クレーはN響への来演で親しく馴染んだ存在です。
夫妻でのシュトラウスの「最後の4つの歌」は、その曲の美しさに開眼もした名演でしたね。
モーツァルト指揮者として初期のオペラ作品の録音や、ベートーヴェン生誕200年のときのDG全集録音で地味な作品をあてがわれたりと、なかなかメジャーな活躍はできませんでしたが、ドイツのカペルマイスター的な存在として、オペラでの実力は並々ならぬものがあったはず。
なんといってもサヴァリッシュの弟子筋にあたる名匠だったのですから。
ニコライのオペラなど、曲の良さもあり、思わぬ名演だと思います。
2010年に都響に来演したときに、ブルックナーの4番を聴いたが、素晴らしい名演でした。
【器楽奏者】
「アルフレート・ブレンデル」(1931~2025.6.17 94歳)
ブレンデルの安らかな逝去も、ポリーニのそれと並んで、私にはひとつの時代の終わりを実感させる大きなことでした。
6月に「ブレンデルを偲んで」の追悼記事を書きました。
【歌手】
「エディト・マティス」(1938~2025.2.9 86歳)
歌手の訃報は堪えると、いつも書いてますが、マティスの死も悲しかった。
前述のとおり、クレーも亡くなってしまった。
2月の「マティスを偲んで」の記事。
「ペーター・ザイフェルト」(1954~2025.4.14 71歳)
まだ若いテノール歌手の訃報。
ルチア・ポップの元旦那さんで、最初はリリックテノールだったが、徐々にレパートリーを広げワーグナーやシュトラウスを歌うヘルデンの声になっていった。
ミュンヘンでの活動がメインだったので、バイエルン州立歌劇場の来演では何度か接してます。
背の高い大柄でルックスもいい見栄えする歌手で、その幅広い音域をこなせる柔らかなの声は、スマートなワーグナー演奏の昨今にはうってつけのものだった。
「ルイジ・アルヴァ」(1927~2025.5.15 98歳)
98歳での大往生。
まだ健在だった、と逆に驚いたロッシーニテノールとも呼ぶべきルイジ・アルヴァの逝去。
アバドのロッシーニには初期の頃にはなくてはならないテノールだし、50~60年代のベルカントオペラはアルヴァなしには語れないだろう。
ペルーの生んだ伝説級の歌手でした。
「ステュワート・バロウズ」(1933~2025.6.29 92歳)
イギリスの国民的存在のテノールで、モーツァルト歌いだった。
ショルティの魔笛でのタミーノがメジャーで初登場したときの録音と記憶します。
凛々しさと親しみ感じる声で、小澤さんのベルリオーズにも参加していた。
来年は久々に「魔笛」を聴いて記事にしてみようと思ってる。
「デイヴィッド・レンドール」(1948~2025.7.21 76歳)
あまり知られていないが、私は何気に好きだったイギリスのテノール。
やや甘口の声質で、人によっては好悪わかれるかもしれないが、私は好きな歌手だった。
好きになったのは、コルンゴルトのオペラ「カトリーン」での優しくも美しい声だった。
デイヴィスのゲロンティアスでの歌唱も素晴らしい。
「ジークムント・ニムスゲルン」(1940~2025.9/14 85歳)
バッハ歌いでもあり、バスバリトンとしてワーグナー歌いでもあったニムスゲルンは、レパートリー的にはテオ・アダムに匹敵します。
ウォータンとしては、やや軽めではありましたが、その美声と表現力の巧みさは。バイロイトの歴代のウォータンの中でも第1級の存在だったと思う。
9月に追悼記事を少し起こしてます。
「フランツ・グルントハーバー」(1937~2025.9.27 88歳)
ドイツの名バリトン、性格バリトンとも言ってもいいかもしれない。
ヴォツェックといえばグルントハーバーと言われるくらいに当たり役だったし、近現代ものでは圧倒的な存在感を示しました。
ワーグナーではオランダ人、アンフォルタスなどが当たり役で、シュトラウス作品もほとんどレパートリーに入っていた。
存外に器用で演技も迫真をついていたので、ともかくマルチな名歌手でありました。
日本での2度のヴォツェックを逃してしまったので、私のグルントハーバーはアンフォルタスのみとなりました。
「ドナルド・マッキンタイア」(1934~2025.11.13 91歳)
ニュージーランド出身でイギリスでの長い活動歴から、英国歌手とも言ってもよいバス・バリトン歌手。
オラトリオや宗教曲のバスとして、そしてややアクの強い声も活かした敵役バリトンとして活動し、ロンドンやミュンヘンでワーグナアー諸役を歌い、76年にはシェロー&ブーレーズのリングでのウォータンとして大活躍をしたことが、マッキンタイアの最良の成果でしょう。
考え抜かれた微細にいたるまで緻密な歌唱でウォータンの多面的な心情を見事に歌い込んだ。
新国のキース・ウォーナーのリングで、フンディングを歌うマッキンタイアに接したのが唯一の経験。
そこにいるだけで圧倒的な存在感であったし、深々としたバスの声も健在だった。
「トーマス・ヨハンネス・マイヤー」(1969~2025.12.15 56歳)
この年末に日本のオペラ界では突然の訃報に悲しみが走った。
日本の数々の舞台に立ち、新演出のヴォツェックでも来日し歌っていた矢先。
体調不良で途中から降板し、帰国してすぐの死去。
ともかくクレヴァーな歌手で、性格表現にたけ、加えて声量も豊かで劇場を声で満たすことのできる強さがあった。
わたしは、1回目の方のヴォツェックと、アラベラのマンドリーカに接することができた。
ほんとに惜しい歌手を失った、バイロイトのウォータンとしても期待していたのに・・・
【その他】
作曲家「ソフィア・グバイドリーナ(93歳)」
作曲家「ロディオン・シチェリドン(92歳)」
演出家「オットー・シェンク(94歳)」
シェンクの演出はいまや古き良き・・という舞台に分類されてしまうかもしれないが、新しい演出に置き換えず、永遠に残して欲しい演出もいくつかある。「ばらの騎士」がそれです。
ピアニスト「ゲーリー・グラフマン(97歳)」
12月27日の死去の報。アメリカのピアニストとして、CBSレーベルの看板ピアニストだった。
セルの1970年の来日に帯同したピアニストだった。
多くの芸儒家の訃報を受け、一方で新しい演奏家も次々に、しかも以前ではかんがえられなかった国籍を有する若者たちが大活躍をする世界となった。
思い出を残していただいた音楽家に感謝とともに、その魂の永遠なることをお祈りいたします。

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