エデット・マティスを偲んで
またしても訃報が・・・
エデット・マティスが亡くなりました。
2月9日、ザルツブルクにて、享年86歳。
次の誕生日を迎える2日前とのこと。
もうそんなご年齢だったのか、と哀しみとともに驚きも禁じ得なかった。
そう、マティスはその若々しく可愛いお声でもって、ずっと自分の若かった時代をともにしたような歌手でしたから・・・・
ルツェルン生まれのスイス人で、なんといってもモーツァルト歌手というイメージが強い。
録音の多さも数知れず、多くの指揮者に愛され、夫君のベルンハルト・クレーとの共演も多かったです。
モーツァルトを中心に、マティスさんのいくつかの歌声を聴いて偲びたいと思います。
ベーム指揮の「フィガロの結婚」
ケルビーノを持ち役でスタートして、ほどなくザ・スザンナと呼べるほどに、歌声も舞台姿もまさにマティスにぴったりの役柄。
プライとのコンビもばっちりで、これはわたしには永遠のフィガロ盤です。
ずっと後年、伯爵夫人も歌うようになったのは、ルチア・ポップと同じですが、やはりマティスはスザンナ。
モーツァルトのオペラでは、イドメネオ(イリア)、パミーナなどが素敵すぎますね。
魔弾の射手のエンヒェンも素敵な持ち役ですが、わたしが案外に好きなのは、ベルリオーズのファウストでのマルグリートです。
こうした無垢なヒロインはマティスのうってつけだし、フランス語も可愛いし、ミステリアスなベルリオーズの音楽にも合います。
小澤さんも亡く、みんないなくなってしまう・・・・
リヒターのバッハでもたくさん共演してました。
カンタータ199番「わが心は血の海に漂う」は、ソプラノソロのカンタータの名品ですが、ここでのマティスのシリアスで言葉に心血を注いだようなな歌唱は、いまこのとき、とても心を打ちます。
古楽が主流となったいまのバッハ演奏ですが、リヒターの60~70年代のこの時代の演奏は、厳しい造形がそのまま音になっていて思わず襟を正さざるをえない。
ジャケットが70年代にすぎますが、若きバレンボイムのドイツ・レクイエムでのマティス。
これがほんとに美しくも無垢なのです。
老練なF=ディースカウとの対比もよいし、バレンボイムとロンドンフィルの作りだす以外にも渋い音楽にも一幅の可憐な花のようです。
シューマンの「女の愛と生涯」
エッシェンバッハと録音したシューマンの歌曲はいずれも絶品で、ドイツ語の美しさが際立ち、揺れ動く感情の機微を愛で優しく包み込んでしまうような、そんな優しい歌声なんです。
ヴィブラートのほとんどない、まっすぐのお声が、実に麗しい。
スザンナを歌っていた頃のマティスに相応しかったのが、ゾフィー役。
ベームのライブ盤では、素敵な可愛いゾフィーが聴かれます。
トロヤノスのオクタヴィアンとの声の対比もばっちり。
大人になってゆく若い女性の描き方も素晴らしいのです。
シュトラウスでは、あとアラベラでのズデンカが持ち役でしたが、こちらは正規音源ないかも。。
そして自分にとって忘れえないのが、「4つの最後の歌」。
夫君のベルンハルト・クレーとN響にやってきて歌った。
それをエアチェックして何度も何度も聴いた高校時代。
その絶美の音楽に感嘆し、シュトラウスに目覚めていった・・・
大切なカセットテープは失われてしまい、その音源の自家製CDRもどこかに消えてしまった・・・
ピアノの名手でもあった指揮者のクレーも、モーツァルトの指揮とピアノにかけては素晴らしいものがありました。
このモーツァルト歌曲集は、わたくしの若き日の、エヴァーグリーン的なモーツァルトの1枚。
シンプルだけれども深みのある歌曲、「ラウラに寄せる夕べの想い」をしみじみと聴きます。
バッハ、モーツァルトからマーラー、ヴォルフまで、ドイツの歌の神髄をその優しくピュアなお声でたくさん聴かせてくださいました。
ベームとの名品、モーツァルトのレクイエムを聴きながら追悼記事を閉じます。
エデット・マティスさんの魂が安らかでありますこと、お祈りいたします。
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